HOME > 日本語 HOME > サガ&エッダ > ブッゲの「グロアの呪文」&「フィヨルスヴィズの歌」についての探訪(⇒同・英訳)
A. (16 世紀の手写本) 1 それは若きスヴァイゼル、 球〔ボルト〕遊びをしておった: 球が女御殿〔ヨムフルー〕†の閨〔ねや〕を打ったれば 坊の頬‡は色褪せる。 されば、言葉〔ことば〕はよく撰ばや! † 原文では Jomfru であり、ふつうはこれは 「乙女」か「娘」をさすが 、 ここでは「女御殿〔にょごどの〕」とした。 第三詩節の Mø「乙女」と混同しないため。 ‡ ここでは hans Kinder「彼の頬」であるが、Axel Olrik が採集した 全 26 詩節 バージョンの「若きスヴァイゼル」では hendes Kinder 「彼女の頬」が青ざめる。 (Olrik の収集したバラードには、Smith-Dampier の英訳がある → Young Svejdal). 2 球が女御殿の閨〔ねや〕を打ったれば†, 若者〔スヴェン〕は追って行った: 再びそこより戻るまでに、 大いなる憂いを心に秘めることに。 † ここでは前節の bur 「閨」が繰り返しされているが、 Olrik 版の第1節では、女御殿の Skjød (=skød) 「膝元、胸元」に球がぶつかったという文句になっている。 3 「投げた球を妾〔わらわ〕に ぶつけるとは何事じゃ: ある乙女〔メェ〕† が異国〔とつくに〕に居やる、 そなたを待ち焦がれておるぞ。 † 女御殿は、スヴァイゼルに何かしらの魔法をかけて、 まだ顔見知りすらしない乙女 (Mø) をせつなく思いこがれる 恋患いにしてしまう。『図解デンマーク文学史』では、継母がかけた、ルーンによる呪縛で あると説明する: "Thi «Jomfruen» — hans Stivmoder — har runebundet ham for en fremmd Mø" (* Illustreret dansk Litteraturhistorie, Vol. i, p. 90) 4 そなたはけして憩いを噛みしめるまい。 けして得るまい: そなたを はなはだ迷走〔まよわ〕せる、その、そなたの憂える心、 それはまるで長らく求めし慕情〔こがれ〕のよう」 5 それは若きスヴァイゼル, 頭を皮衣〔スキン〕で包〔くる〕み: そして房中にゆけば、 彼の王官ら〔ホフメェン〕†だらけ。 † hofmænd 「宮廷+人」の意。すなわち「廷臣」、「(王の)家来」。(Tor Gjerde's の電子テキストの hor- の綴りは入力ミス)。Axel Olrik 版 では hovmænd と綴るが、E. M. Smith-Dampier 女史は、どうやらこれを 「頭+人」と解釈しており "captain" と英訳している。 6 「こんなところで、お前たち何くだを巻いているんだ、 杯から蜜酒〔ミョード*〕を飲んだくれて: 俺が山陵〔ビャウエッ〕に行って、 わが愛する母上†と話す間に」 † ここでスヴァイゼルの実母はすでに 亡き人で墳墓〔みささぎ〕の下に 埋葬されていることがわかる。(死した亡霊なれども、助言を与えたり、 贈り物をすることはできるらしいが。) 先ほどの女御殿は継母(Stivmoder →以下、第10節を見よ)。 7 それは若きスヴァイゼル、 出掛けていくや、声あげて呼びかけた: [すると]壁も大理石も裂け、 山陵はくずれ落ちた。 8 「誰じゃ、そこで呼ぶのは? 悲しげにに妾〔わらわ〕呼び起こすのは? 安らかに横たわることはかなわぬのか、 黒き土〔ヨーァ〕のしたで?」 9 「若きスヴァイゼル、ここにあり、 貴方の愛〔まな〕息子: よきご助言を賜りたきございます、 こよなく愛する母上より。 10 私は継母に捕まりました、 ひどい仕打ちをうけたのです: 彼女は私に心の欲動〔うずき〕を植えつけました、 まだ見すらせぬ相手にたいしてです。 11 「さて、今起きるなぞ、したものかのう、 眠りと辛き苦痛からより: お前がいつかきっと、 旅すと同じ道を。 12 お前には仔馬を授けよう、 お前をよく担ってくれる一頭を: 塩鹹〔しおから〕き峡湾〔フィヨルド*〕もたやすく、 緑の陸〔おか〕と同然に走るやつを。 13 お前に織物を授けよう、 お前の周りに拡げられるやつを: もしも餐食を欲しくなっても、 お前の苦情を癒してくれよう。 14 お前に獣角〔デュアスホーン〕[の杯]を授けよう、 黄金で留め金したやつを: もしも飲物が欲しくなったら、 たえずなみなみと湛えてくれよう。 15 お前に《杯からかの剣〔スヴェーァデッ〕》を授けよう、 竜血でもて硬くしたやつを: いつしも暗き森〔メーァクン・スコウ〕†をよぎり馳せれば、 それは焚火のごとくに燃える。 † ここにみる「暗き森」(mørken Skov)に酷似するのが、 詩エッダで散見する「暗き森(ミュルクヴィズ)」(myrkvið) である — 鍛冶師ヴェルンドら兄弟が娶る、羽衣の乙女らが舞い降りる森(「ヴェルンドの歌」1) がそれであり、ムスピリの子等が馳せる森(「ロキの口論」42)もそう呼ばれる。 ヴィクトール・リュードベリの「勝利の剣」論考にも重要性がある。トールキン『指輪物語』の 「闇の森」が"Mirkwood"と称すことは有名。 16 お前に長船〔スネッゲ〕を与えよう、 塩鹹〔から〕き峡湾〔フィヨルド〕にあるやつを: 航海で会うすべての敵ども、 やつらを川底にのしてゆく[?]」 17 者どもは絹の帆を掲げ、 鍍金の帆桁〔ほげた〕高らかに: そして[船を]走〔〕らせた、かの乙女が居る、 かの地めがけて。 18 者ども錨〔いかり〕を投錨〔とうびょう〕 す、 白き砂〔すなご〕の上に: それは若きスヴァイゼル、 真っ先に地を踏んだ。 19 それは若きスヴァイゼル, 白き砂の上に: 最初に出会った人物は、 この地の羊飼いだった。 20 それは善良なる羊飼い、 先に質問をゆるされた: 「何がお悩みじゃ、そこの若い衆は? その心の渇きは何じゃ?」 21 「彼には心の欲動〔うずき〕が、 いまだお目にかかってない相手に: 若者の名は若きスヴァイゼル、 と伝説のいわく 」 22 「この地にも乙女がおり、 [誰〔たれ〕ぞかに]強き慕情〔こがれ〕をいだく: [相手は]スヴァイゼルという名の若者、 いまだ目にせざる者なれど」 23 «聴けよ、善良なる羊飼いよ、 いま私が言うことを: 知っているのか、 乙女の居場所を? 隠しだてはせんでおくれ」 24 「緑の森を越して往け、 そこに乙女の中庭が建っている。 門戸は白い鯨骨造り、 門戸は、鋼張り。 25 この乙女の門の外には、 うんと怒れる獅子が: しかしもし、お主がまことスヴァイゼルならば、 自由にかいくぐれるぞ」 26 「それはみな本当か、 お前がいま言った事は? 私がこの地の王になったあかつきには、 お前を騎士にしてしんぜよう」 27 黄金の門に来れば、 そこで見たものは: あれやこれやの錠前が、 みるまにはずれてゆく。 28 獅子と白い熊たちは、 紳士の足元にひれ伏した: リンデンの樹は、その枝をおろして、 大地にふくらむ†。 † これと並行する記述が、「スヴィープダグの歌」の 第2歌「フィヨルスヴィズの歌」第 20-21 節にみられる: そこではミマメイズ Mimameiðr という名の樹が、その枝で世界を覆っているのである。 これは、北欧神話ではユグドラッシルや レーラズと呼ばれる世界樹にほかならない。 また、神話では世界樹はリンデン(しなのき)ではなく、トネリコの樹とされる。 29 城の庭のまんなか、 そこで皮衣〔スキン〕†を羽織る: そして高殿に行く、 なかに異教の王おらぬかと。 † Skind - Smith-Dampier は "vair" と英訳しているが、 これは上流階級が身に着ける(灰色リスの?)毛皮。中世時代は、 貴族以外の庶民が、こうしたぜいたくな毛皮を身につけることを禁じる法律があった。 30 「ご機嫌よろしゅう、異教の王どの、 ご自身の卓に着席でござりますな: 貴殿のご息女をいただけませぬか、 されば、貴殿の返事はいかに? 31 「わしに娘とは、一人をおいてほかおらぬ、 あれは強き慕情に縛られておってのう、 相手は若きスヴァイゼルなる若者で、 いまだ、その目で見たこともないそうじゃ」 32 それに答えたのは小さな 従童〔スモードレン(グ)〕、 白のコート着てつっ立ったまま: 「お嬢様を追い求めてきたスヴァイダル、 ついにここにやってきた」 33 急ぎ†の伝令が高殿にやって来た、 なかの美しき 乙女〔ヨムフルゥ〕 宛てに: 「ただいま若きスヴァイゼルが座ってます、 お父上の隣にご一緒してます」 † brådt が辞書になかったのだが、 Garmarna が演奏する "Hilla Lilla" の歌詞に "Brådt kom bud för drottningen in.." の一行があり、これは「 急な一報が女王に届いた」の意味となっていた。 * ちなみにこれは、オルリックが収集したHillelilles Sorg (英訳は "The Griefs of Hillelille")の スウェーデン語版であろう。 34 「じゃあ、高い帆桁〔ほげた〕なんてどこかにやっておしまい、 ついでに 棺架〔かんか〕もおねがい: あなたがたついてらっしゃい、高殿に、 私の心の愛のところに」 35 かように語るは美しき乙女、 戸口に歩み寄る: 「ようこそ若きスヴァイゼル, 私の最愛の方 !」 この例では、このあとどうなるかというと、こう語られている。乙女は父にどうか洗礼を受けてください、さもなくば、彼女はスヴァイゼルと一緒に去っていってしまいますわよ、伺いをたてる。そして父と乙女はキリスト教の宗旨を受け入れるのだが、これは祝儀に先立っておこなわれる。スヴァイゼルは、羊飼いを叙勲して騎士に任じ、演壇(卓上)に立たせる。そして締めくくりにこう語られている: 42 今は若きスヴァイゼル、 すべての悩みから快復し: それは気高き乙女もおなじ、 彼の腕のなかに眠る。 されば、言葉はよく撰ばや! C. (17 世紀の写本二例より) こちらの一点の記録例も、序盤は基本的に A と一致する。 ただし、第11詩節では、「私の姉(妹)と継母がわたしに慕情をわずらわせた」となっているが、これは単なる変異であるにすぎない。 13 「お前には馬を与えよう、 とても良かろうやつを。 [それは]日どおし夜どおし乗っても、 ちいともめげたりはしない。 14 お前には良い剣を与えよう、 人呼んでエゼルリング*: 対決においては決して 必勝を得ぬことなし」 * これとやはり同名なのが、ディゼリク〔=ディートリヒ・フォン・ベルン[独]〕王が入手する剣である。エゼルリング は、ドイツ文献でいうところの、ディートリヒの剣ナーゲルリンクの歪曲。また、べーオウルフの剣もネイリングという。 15 それは若きスヴェンデール、 剣を横腹〔わき〕に帯びる: 良馬にうちまたがり、 いつまでもじっとしている気はなし。 16 それは若きスヴェンデール、 馬に拍車をかける: 広い海を駆けこえて、 緑の森を抜ける。 17 荒い海を駆けこえて、 暗い森を抜ける: そして許婚者〔いいなずけ〕が 眠る、 くだんの城にきたる。 18 「聴けよ良き羊飼い、 私が云うことを: この城には乙女がいるのか? 隠し立てするんじゃないぞ」 19 この城には乙女がいるのか? 隠し立てするんじゃないぞ もし俺がこの地の王となれたらば、 貴族にしてしんぜよう」 20 「板は硬い鉄、 それに門は鋼: かれこれ十八冬になる、 乙女が[最後に]日の目をみてこのかた。 21 獅子と荒くれな熊が、 正面に構えている: 生ける者は、誰しも立ち入れぬ、 若きスヴェンデールを別として。 22 それは若きスヴェンデール, 馬上に腰掛けながら: そこはくだんの壁、 彼がこよなく知る。 23 それは若きスヴェンデール, 馬に拍車をかけた: そろりと一ッ跳び、 城の中庭に。 24 そろりと一ッ跳び、 城の中庭に。 獅子と荒くれ熊は、 その足元にひれ伏した。 25 獅子と荒くれ熊は、 ご主人様の足にひれ伏した: リンデンの樹はその金ぴかの葉を おろして大地に ふくらんでいた 。 26 リンデンの樹は、大地にふくらんでいた、 その金ぴかの葉をおろして: すると起きあがったのは気高い 乙女、 それまでの長い夢酔†から。 † 「眠れる森の美女」と同じで、 十八年の年月(第20句)を経ているけれども、少しも老いていないのであろう。 27 それは気高き乙女、 拍車が鳴るのを聴いて: 「お助けあれ、神よ、天主様、 この苦から私をついに解き放ってくださいませ! 28 お助けあれ、神よ、天主様、 この欲動〔うずき〕が解けねばたまりません: そして恥ずべきはお継母〔かあ〕さま、 よくも長い時間〔あいだ〕、こんな目にあわせといて!」 29 それは若きスヴェンデール, 戸口に踏み入れる: すると気高き乙女、 彼のためにふたたび蘇る。 30 いざ入る若きスヴェンデール、 美しくそして若く: それは若き乙女、 その到来を抱きとめる。 31 「ようこそ若きスヴェンデール 私の尊いお方: 感謝します、神よ、天主様、 私たち両人を苦からお解き放ちくださり」 32 いまは若きスヴェンデール 苦悩からも悲嘆からも治〔なお〕り: いまや倖せに 乙女の腕の中に眠る。 33 いまは気高き乙女、 苦悩からも困窮からも治り: いまや倖せに 若きスヴェンデールのかたわらに眠る。 それでは言葉はよく選べよ! ← Fjölsvinsmál | ↑ | →