Exeter 写本の「デオール」第38行

Deor's Lament

『デオールの嘆き』

{アングロサクソン語テキスト}

Welund him be wurman       wræces cunnade,
anhydig eorl       earfoþa dreag,
hæfde him to gesiþþe       sorge ond longaþ,
wintercealde wræce;       wean oft onfond,
5
siþþan hine Niðhad on       nede legde,
swoncre seonobende       on syllan monn.
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

Beadohilde ne wæs       hyre broþra deaþ
on sefan swa sar       swa hyre sylfre þing,

10
þæt heo gearolice       ongieten hæfde
þæt heo eacen wæs;       æfre ne meahte
þriste geþencan,       hu ymb þæt sceolde.
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

We þæt Mæðhilde       monge gefrugnon

15
wurdon grundlease       Geates frige,
þæt hi seo sorglufu       slæp ealle binom.
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

ðeodric ahte       þritig wintra
Mæringa burg;       þæt wæs monegum cuþ.

20
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

We geascodan       Eormanrices
wylfenne geþoht;       ahte wide folc
Gotena rices.       þæt wæs grim cyning.
Sæt secg monig       sorgum gebunden,

25
wean on wenan,       wyscte geneahhe
þæt þæs cynerices       ofercumen wære.
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

Siteð sorgcearig,       sælum bidæled,
on sefan sweorceð,       sylfum þinceð

30
þæt sy endeleas       earfoða dæl.
Mæg þonne geþencan,       þæt geond þas woruld
witig dryhten       wendeþ geneahhe,
eorle monegum       are gesceawað,
wislicne blæd,       sumum weana dæl.
35
þæt ic bi me sylfum       secgan wille,
þæt ic hwile wæs       Heodeninga scop,
dryhtne dyre.       Me wæs Deor noma.
Ahte ic fela wintra       folgað tilne,
holdne hlaford,       oþþæt Heorrenda nu,
40
leoðcræftig monn       londryht geþah,
þæt me eorla hleo       ær gesealde.
þæs ofereode,       þisses swa mæg!

{拙訳}

ウェールンド〔ウェイランド〕は、ウルムどもにかこまれて さぞに惨めを覚えしや。
毅然たるエオルは 艱難によくぞ耐えて、
憂慮うれいと、 がれとを、おのれの供となされしや。 
寒冬ごとき虐待をぞ。 そな憂き目に逢うも、度重たびかさねありけり。
( 5) ときに、ニーズハード〔ニーズズ〕註1は、彼にくびきをもちいられたり。
しなう腱筋すじの繋索を よりぬきんでた彼の者に。  
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  

バドヒルド〔ベズヴィルド〕 姫にかれては、 弟御おととごどのらの死たりとて、  
おんみずからのご事態ほど 心わずうものになく、
(10) じゅうじゅう、おどりあそばすがごとく、
御児を懐妊みごもりしことにあり。 先行きを予見するにしろ、
おそれなくては、でき申さず。
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  


我らはマーズヒルデ註2の憂いを 教わりしや。
(15) イェーアト〔ゲータ〕〔族〕の妻の〔憂いの〕それは、 数知れぬほどとなり、
悲痛の思いのあまりには、 安眠すべて奪われし。
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  


三十冬みそとせのあいだ、セードリーチテオドリック註3は、
メーリンガブルフメーリングの都を護持したること 多くの者知るところなり。
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  

我らはエルマンリーチ〔エルメンリク〕註4のことを 聞き及びし、  
かの豺狼がごとき心の者を; そはゴート族の地において  
多くの者に君臨せり− なんとも残酷なる大王おおきみぞ。
多くの者どもの、悲嘆に囲わて坐せば、  
憂苦をむしろ期すべきものとし、いっそ王国の  
倒さるることを しばしばならずともこいねがう。
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  

心の重き者が、運にみはなされて坐する。  
想いは陰鬱なり 己が身を顧みるに、  
その者にわかち与えらる憂慮、さながら絶え間なし。  
さすれば、この世の所々には、  
聡明にあらせる神が 変転をもたらせになり  
多かりきの者に 恩寵みめぐみをお授けになりますれば、
また幾ばくかの名声と、 一抹の悲しみを  

我、己について、かくたる事を語りたきに存ずる:
かつて我は ヘーデニング一族の詩人ショップなり。  
わが殿の愛でし者−わが名はデオールと云った註5  
往年、我は裕福なる地位にありつき、  
忠をつくしたる、一邑いちゆうの主だった。
これなる領地を 歌に長じたヘーレンダのやつめに賜るまでは、  
兵士つわものどもの守護どのが、我に下さりし地を。
それとて過ぎてこされしば 此なこととてもなろうぞ!  



由来:

* 推定8世紀頃の成立とされる、アングリア方言のアングロサクソン語(古英語)の詩で、 デオール(「鹿」の語源だが、本来は「野生動物」の意)と名乗る詩吟楽士ショップ*scop[古英]が、パトロンのヘーデニング(ヘオデニング)*Heodening[古英]の氏族の恩寵を失い、ヘレンダという新参に役職も領地も奪われたことを嘆いた歌。
 古英詩集として有名な 「エクセター写本」 *The Exeter Book[英],Codex Exoniensis/Liber Exoniensis[羅]に収録されている。この写本は、エクセターの初代司教レオフリック*Leofric(?〜1072年歿)がエクセター 大聖堂付属図書館に寄付したものと伝わる。

脚注:

註1鍛冶師ウェルンド(北欧 ヴォルンド*Vöundr [北欧])にたいして、 ニーズハード[古英](ニーズズ[北欧])王がおこなった仕打ちも、ヴェルンドが報復として王の若い王子らを殺戮し、王女バドヒルド[古英](ベズヴィルド[北欧])を手篭めにする逸話も、北欧の『詩的エッダ』の一篇、「ヴォルンドの歌」に記される。 その北欧詩によれば、ヴォルンドは「腱の紐」で縛められたのではなく、バスト(しなのきの樹皮の紐)で縛られ、足の腱を切られて歩く自由を奪われたのである。[BACK]

註2 このマティルドについては、なにも伝わるものがない。イェーアト〔ゲータ〕*Geatの妻とは、ゲータ族の王妃という意味なのか。あるいは、伝説的なゴート族の太祖のことか、それとも他の人物か。ここは、イェーアト〔ゲータ〕王の恋慕の思いがありあまるがゆえの気苦労と解釈する訳もある。[BACK]

註3 テオドリック(独 ディートリッヒ*Dietrich von Bern[独]、北欧シオーズレク*Þjóðrekr, Þidrekr[北欧])は、ベルンの王だったが、国を追われることじつに三〇年。アッティラの宮廷ですごしたことになっている。古『ヒルデブラントの歌』でも、忠臣のヒルデブラント「夏と冬を数えて60季」、追放の身ですごしたことがわかる。メーリングの都はいまひとつ不詳だが、リュードベリが『ゲルマン神話』43章で、解読を試みている。「メロヴィングの都」という解釈もある。[BACK]

註4 エルマンリク*Ermenrich, Ermenrik, Ermanrich, Ermrich, Ermanarich[英、独]は、上のテオドリックの叔父でありながら、それをベルンの国から追った張本人である。 また、この王がある女性を馬で曳いて四つ裂きに(あるいは踏みしだかせて)無残に殺し、その女性の兄弟に仇討ちされる逸話は、ヨルダネスの『ゴート人史』にもみえ、また『詩的エッダ』でも、殺される女性が、グズルン女王に生まれたシグルドの遺児の娘という設定で書き綴られる。[BACK]

註5 ヘーデニング(ヘオデニング)一族*Heodeningとは、 ヘーデン(ヘオデン)[古英]*Heoden[古英]を祖または長とする一族の意味。またはヒャズニングの諍い*Hjaðningavíg[古ノルド], Hjadnings' strife[英訳]が出ているが、これはヘジン王*Héðinn Hjarrandason[古ノルド], Hedinn, son of Hjarrandi[英訳]が英雄王が、ヘグニ王の王女ヒルデを奪い去り、婿と義父がはてしない戦争をくりかえす物語で、後世の『ソルリの話(とヘジンとヘグニのサガ)』*Sörla Þattur[古ノルド], Sorli's Tale[英訳]でもとりあげている。
また、中高ドイツ詩『クドルーン(グードルーン)』の第2部は、この再話で、ヘッテル王*Hetele[中高ドイツ], Hettel[独]が、ハーゲンの娘のヒルデ(II世)を見初め、ワーテ*Wate[中高ドイツ, 独]やホラント*Hôrant[中高ドイツ], Horant[独]を求婚の使者に遣わす。 [BACK]

註6 「わたしは名前をデオールと云った」と過去形になっているのは、「デオール」と "dear (可愛がられた)"にかけた語呂あわせである。つまり寵を失ったことをみずから皮肉っているのだ。[BACK]

註7 宮廷楽士ヘーレンダ*Heorrenda の北欧形はヒャルランディ*Hjarrandi[古ノルド] であるが、これは『詩の語法』49章では、註5でふれたヘジン王の父王の名。『ソルリの話(とヘジンとヘグニのサガ)』では、このヒャルランディは、セルクランド*Serkland[古ノルド](=北アフリカの国?)の王である。
しかし、中高ドイツ詩『クドルーン(グードルーン)』の第2部では、ヘッテル王の嫁としてヒルデ姫を迎えにいく使命をおびた使節団の一人が、ホラント*Hôrant[中高ドイツ], Horant[独]という。宮廷楽士でこそないが、その演奏のたくみさに姫はすっかり傾倒してしまい、その歌が毎日聞けるのならと、ヘッテル王の国への嫁入りを承諾する。 [BACK]

付録:人物対照表

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推奨リンク:

テキスト・RealAudio, Midi, audio ファイル等

  • Ða Engliscan Gesiðas 古英ソサイエティ エングリシャン・イェシィザス内の 『デオール』 Steve Pollington 現代語訳
    (+ 『デオール』の朗読 オーディオファイル付き)
  • C. Abbot Conway マギル大学コンウェイ教授 『デオール』 Charles Abbott Conway 訳
  • Heorot.dk site banner 牡鹿館ヘオロット:(電脳空間のベオウルフBeowulf on Steorarume) 『デオール』 ベン・スレード氏・対訳
    (+ ロバート・フルク教授による『デオール』の朗読録音 付き)
  • University of Southhampton 英国サウスハンプトン大学
    英文科ベラ・ミレット教授の『デオール』 訳。
  • The Cambridge History of English and American Literature, Vol. I, Ch. III, § 7. Deor
    何しおう文学参考書。この詩の登場人物名について説明しており、Heodening や Heorrenda と、北欧の詩エッダや、中期高地ドイツ詩「クードルーンとの対象について触れている。

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