1. Eingang [序詞]
誰といわずとも、君。夕暮れになったらば、外までへと、
もう、すべて知りつくしたはずのその部屋にいるのはよして、歩み出るがいい。
なぜなら、君と
《彼方
》とを隔つ最後のものは、君の家きりなのだから。
誰といわずとも、君。
君がそうやって、すり減った踏石にあてがったきり、
ろくすっぽ見あげることすらせず、やつれはててしまった目で、
一本の黒い樹を思い浮かべ、
天空のさなかに−ほっそりと、かつ、ぽつりとひとつ−立て掲げれば、
そこにはひとつの世界ができあがる。その世界は広く、
言葉がそうなように、語られずままにして熟してゆく。
そうしてやがて、君の意思によってその意味を捉えられたなら、
目からそっと、その世界を解き放つがいい。