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Ruknabad ルクナバード 【武器:剣】【田中芳樹作品】

Ruknābād رکناباد   [Persian/Arabic]
異綴り: Rocnabad; Rouknâbâd [Fr.]
名の由来: シーラーズ Shīrāz を流れる川の名。 (由来の詳細については⇒後述)。

王太子アルスラーンが得た剣の名。田中芳樹 (1952年生)の ファンタジー大作『アルスラーン戦記』に登場。

〔* ちなみに同作品は、 フェルドウスィー『王書(シャー・ナーメ)』 をはじめ、 様々な文学や史書から人名や舞台の地理名を借用している

 ファンタジー作品のなかの「パルス国」の伝承では、英雄王カイ・ホスローが蛇王ザッハークデーマヴァント山に封じこめた と伝わる。ルクナバードは、その封印をなした宝剣であることは、三歳の幼児ですら知っている。〔* 『王書』ではデマーヴァンド山にて蛇王ザッハークを縛めたのはフェリドゥーン王〕

 やがてアルスラーン王子は、王位継承の正当性を勝ち得るために、この宝剣の所有を求めることになる。

§ あらまし

ネタばれ注意

かつて蛇王ザッハークは悪政と残虐のかぎりをつくし、千年もの歳月を君臨した。 その両の肩からは蛇が生え、人間のいけにえを養分と欲した。 しかしついに英雄王カイ・ホスローが世に現れ、蛇王をマザンダラーンの野において降し、俘虜とした。 不死身のザッハークは殺すことはできなかったが、「地中深くの洞窟に彼を押しこめ、ふとい鉄鎖で全身を縛り、 両手両足の腱を切り、二十枚の厚い岩板をつんで地上への道をたった」
そして宝剣ルクナバードを地中につきたてて封印した。
 カイ・ホスローが齢四十五にして崩御されると、その遺書により甲冑一式を身にまとう姿で埋葬されたが、 そのとき宝剣もいったん発掘され、王の柩に収められてデマヴァント山にまた埋められた。 (『アルスラーン戦記』 第2巻第4章 VII)

ヒルメス王子、宝剣を奪取せんと
ヒルメス王子 (銀仮面卿)は、アルスラーンとはパルス王位を争う対抗継承候補者であった。 王子は詭計をもちいて王都エクバターナ奪還に成功。そして、王座の主張権をよりいっそう磐石にするため、 デマヴァント山の宝剣を掘り起こすことを思いついた。 しかし、剣を発掘しようとすると、山は咆哮し、風が荒れ狂う。 そこに斥候の命を帯びてやってきた吟遊詩人のギーヴが姿をあらわし、これを目撃するや、 剣をすぐに元に戻せ、さもなくば蛇王の再臨となることは、幼児でも知っている、とヒルメスをけなしまくる。 ヒルメスはいったん腹心のザンドに剣を手渡すが、ザンドもあのいまいましい吟遊詩人めの言い分に 異を唱えることはできず、地の割れ目に剣を投げ入れてしまう。 (『アルスラーン戦記』 第5巻第2章 II-)

アルスラーンの決断
十四歳のアルスラーンは、捕虜となった当代王アンドラゴラスにかわって摂政をつとめていたが、短期間でめざましく 成長する。そして従来の国政が、さまざまな不平等や不合理をはらんでいると悟るのであった。 またアンドラゴラス王が、軍事力にこそ長けているものの、その癇癪持ちで横暴な性格ゆえに、 いらぬ苦慮を度多くもたらしていることに気づくのである。
そしてアルスラーンが王がもうけた実子ではなく、王家の血統を引く者ではないことが判明する。 (ただ、あるいは王族の血が一滴か二滴くらいは混じっておらぬこともないだろう、と蛇の僧侶も指摘はしているが)。
血縁のつながりは絶たれた、しかしここで王子は大いなる決断をする。デマヴァント山をたずね、 「英雄」の衣鉢を選ばれた継承者であることをしめす証、宝剣ルクナバードを手にすることを決めたのである。 カイ・ホスローの眠る聖地で、強風や豪雨にさらされながら、王の聖霊に請願する。 もし資格の無くば、その場で雷に打たれようとも、いとうこと無い、と口にした王子に 一瞬の光がひらめき、みるとその手には宝剣が横たわっていた。 供者はみなかしずいた。英雄王の聖霊は、王子をふさわしき世嗣と選ばれたり、と。 (『アルスラーン戦記』 第7巻第5章)


ルクナバードを抜き放つアルスラーン. 肩にとまるのは鷹の告死天使アズラエル —『アルスラーン戦記』 第8巻の表紙より 「第8巻:仮面兵団」 角川書店 (表紙・イラスト 天野喜孝)。

ルクナバード中村地里による漫画版『アルスラーン戦記』第13巻の裏表紙より (角川書店)


↑ 中村氏のサイト。ギャラリーなどもりだくさん。

§ 由来についてのツッコミ調査

剣名であるルクナバード
Ruknābād は、 シーラーズ市 Sīrāz を流れる河で、 詩人ルミ(1207-73年)の作品にも歌われる。

 またハーフィズ (1320-89年)の『ディヴァン』の一篇 「シーラーズのトルコ人」 *1 に次のように歌われる。

シーラーズのトルコ人*2が、わが心を奪うなら、
彼のインドぼくろにサマルカンドとブハーラを贈ろうか。
ほら、酒姫サーキィよ、残りの酒をこっちにおくれよ、
だって楽園はルクナバードのほとりや、ムサッラーの花園には見つからなかろうから。
(第1〜2詩節)
ルクナバードは、「ルクナ」 ruknā と縮めて呼ぶこともあるが、この語根は、「精錬された黄金」の意味で、 とある錬金術師の名前からとられてつけられたのだそうだ。 「太陽のかけらを鍛えたるなり」*3と歌われた宝剣の名になんともぴったりではないか。

それに、アルスラーン Arslān という王子の名も、「獅子」を意味するトルコ語の借用語であり、 黄金の兜をかぶる王子 ((『アルスラーン戦記』 第1巻第1章 VI)に、「太陽のかけら=黄金」の剣という取り合わせは おあつらえむきな気がする。
*1 「シーラーズのトルコ人」 の 英訳は、ストレートな意訳ならPersain Word-Processing: Templatesのページ、 あるいは神秘的解釈なら mystical interpretation by Iraj Bashiriを参照。


*2 このトルコ人は、女性として英訳されたこともあるが、実際は美貌の男性である。 そのことは、第5詩節でユースフ Yusuf (旧約聖書の ヨセフ Joseph)の美貌におぼれたズライハ Zulaykha (ドイツ詩人ゲーテがいうところの スライカ Suleika)への言及があることからもうかがえる。
 また、三行目の酒姫サーキィというのも、じつは女性ではなくて少年のお酌であり、 「よく同性愛の対象とされた」ことは岩波文庫『ルバイヤート』の巻末註でも説明している。 田中芳樹作品ではたしか酒姫サーキィが酒亭の名前に拝借されていたと思う。

*3ごぞんじギーヴが詠じています:


Sources:

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