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メールストロム 【地理/自然現象】 【北欧】

Maelstrom [英]; Moskenstraumen [ノルウェー語];
umbilicus maris 「海の臍〔へそ〕」, vorago 「旋渦」 (パウルス・ディアコーヌス、 8 世紀) [羅];
vorago abyssi 「奈落の旋渦」 (ブレーメンのアダム、 11 世紀) [羅];
caribdis, charibdes 「カリュブディス」 (オラウス・マグヌス、 1539 年); [羅],
Malestrand (ハクルート、 1589 年); [蘭], malstrøm [デンマーク語],
[* 古ノルド語ではこういう呼び方がされた記録・文献は残ってないようである。『オックスフォード英辞典』では、 その語源を中期オランダ語のmaelstom (現代オランダ語では maalstroom)「渦」= malen 「挽く、旋回する」 + stroom 「流れ、水流」としている。]*1

    北極圏内のノルウェー沖に出現する、別名「モスケンの大渦巻き」。魔法の碾き臼⇒グロッティ Grotti が沈没した場所に出現した渦は、実在するこの渦巻きのことかと想像できる。

"Hic est horrenda caribdis" (これぞ恐ろしきカリブディス[の渦]である)
— オラウス・マグヌス
『海図(Carta Marina )』(1539年)より
(再版:Uppsala 1986年)

 北極圏の海に発生するメールストロムについての考察は、さまざまな中世の地理誌執筆者がとりあげている。 内容面では、ヴィクトール・リュードベリが、それら地理誌を網羅的に紹介・比較分析しているので参考にされたし。
  当ページでは、主に中世の地誌(大半はラテン語)が「渦巻き」をどういう名称で呼んでいるかにもっぱら重点を置くこととする。
 踏まえておくべきは、「メールストロム」の同源語が使われた実例は、早いものでも 1600 年より少しも前頃*1をさかぼらない、ということだ。
 そして英訳家たちは、"maelstrom"という英単語をどしどし平気で当てているが、原書では「メールストロム」と同源語とみなせるラテン語表現(例えば molo + fluvium のような語)が使われているわけではないのだ。

*1 『オックスフォード英辞典』(OED) によれば、Mælstrom という単語の最初の使用は、 オランダの地図、例えばメルカトルの地図(1595 年)であるという。 しかし誤字である Malestrand ならばより早い時期に ハクルート著 Hakluyt's voyage (1589 年) で発表されており、 実際の年代は、航海者ジェンキンソンが航海を終えてまもなくの 1560 年とされる: 英文 Ch. 77 の訳→「 前述の Rost 諸島と Lofoot 諸島の間には、 Malestrand という渦潮があるという。」
 デンマーク語形 malstrøm の最初の使用は、デベス Lucas Jacobsen DebesFæroæ et Færoa reserata (1673 年) [英訳: John Stephen 訳 1676 年]。
 その他、スウェーデン語 malström, フェロー語 mal(n)streymar

*2 地図製図家メルカトルは、北方の渦巻きを説明するに当たり、 Giraldus Cambrensis (1146-1220年)著Topographia hibernicaを資料としている。








【RPGゲーム系統】
 DQシリーズ「メイルストロム」という水流の力でダメージを与える呪文 (参:ドラゴンクエストの呪文体系)の元ネタとなっており、 FFシリーズの「ミールストーム」という砂嵐系の呪文名も、ここから派生しているようである。
 余談だが、「メールストロム」の「メール」は、英語で「挽いた粉」を意味する "meal" とは同源語である。 しかし英語で、「食事」を意味する"meal" (<「時刻」が語源)とは無関係なのだ。

§ Paulus Diaconus (720頃-799?年),

 パウロ助祭 (パウルス・ディアコーヌス) *1は、 8 世紀の著書でゲルマン民族の住むスカンジナビア地方 について執筆しているが、特に「雄鹿に似なくともない動物」 (Waitz によればトナカイのこと)を追って暮らす スクリトビニ族 Scritobini (=Scridefinni フィン人、ラップ人?)が住む地域があると言っている。
 「そして、その沿岸からさほど遠くないところに」 深い渦巻き (vorago [羅] もしくは vertigo [羅]) があり、これこそがいわゆる「海のへそ」 (umbilicus maris [羅]) なのだと言っている。


*1 パウルス・ディアコーヌス (c.720-799?年 Paulus Diaconus, Paulus Warnefridi, ~Warnefridua) 著『ランゴバルド史 (Historia Langobardorum) 』。Waitz, Georg, 1813-1886 編 Pauli Historia langobardorum. In usum scholarum ex Monumentis Germaniae historicis recusa. (Hannoverae, impensis bibliopoli Hahniani, 1878)
[英訳=] History of the Langobards, Book 1, Chapter V-VI。訳者: Foulke, William Dudley, 1848-1935., (Philadelphia : Dept. of History, University of Pennsylvania ; New York : sold by Longmans, Green, 1907. [reprint 1974]) (xlii, 437 p.)

§ Adam von Bremen (11 世紀)

    ブレーメンのアダム *1 は、ブレーメン大司教アダルベルトからかつて聞いた話として次のように語る:

Adalbertus, in diebus antedecessoris sui quosdam nobiles de Fresia viros causa pervagandi maris in boream vela tetendisse , eo quod ab incolis eius populi dicitur ab ostio Wirrahae fluminis directo cursu in aquilonem nullam terram occurrere praeter infinitum occeanum.
:
[..relinquentes .. Daniam, .. Britanniam, pervenerunt ad Orchadas. cum Nordmanniam in dextris haberent. . Island collegerunt.]
[..Deo et sancto confessori Willehado suam commendantes viam ..]
:
..subito collapsi sunt in illam tenebrosam rigentis occeani caliginem, quae vix oculis penetrari valeret. Et ecce instabilis occeani euripus ad initia quaedam fontis sui archana recurrens, infelices nautas iam desperatos, immo de morte sola cogitantes, vehementissimo impetu traxit ad chaos [hanc dicunt esse voraginem abyssi -] illud profundum, in quo fama est omnes recursus maris, qui decrescere videntur, absorberi et denuo revomi, quod fluctuatio crescens dici solet..
 アダルベルト[様]が仰っしゃるに、その前任者の方の日々の頃、何人かのフリジアの貴族らが、 帆をかかげ北方にのびひろがる海を探検しに出、俗に言うウィッラヘ河口[ヴェーザー川の河口]にある本国から、 向かって北に航路をとることにした、というのは、果てしない海の向こうには陸地など無いぞ、と人々が言っていたからである。
:
:
[一行は、デンマークを後にし、英国を通り過ぎ、オークニー諸島に到着。右手にノルウェーを過ぎ去り、 アイスランドに上陸した。]
[一行は、その先の道のりを神と聖ヴィレハートのおぼしめしのままにゆだねた]
:
.. そして入りこんだのは、暗く痺れるような海の狭霧で、それは視覚がつらぬくことができないほどであった。 すると見よ、定まらない海峡に開けた摩訶不思議な源泉が、 おのずのうちに水を逆流させているではないか。 不運の航海士たちは、失望し、いや、死ぬことばかりしか頭にすることができなかった。[渦巻きは] 猛然と襲いかかり、彼らを深い混沌へと[つまり奈落の旋渦へと]ひきずりこまんばかりである。 それは深く、言い伝えによれば、海のすべてのものがこの中に還るというし、くるくるとすぼまるかと思えば、 あるいは[物を]吸い込み、あるいはそれをまた吐き出し、と、そのつのる激動のことは、大体のところかように伝わっている。
— ブレーメンのアダム
『ゲスタ・ハンマブルゲンシス』 (私訳)*2, 2a

 フリジア人たちは、櫂をこいで岸にたどり着き、巨人たちの棲む地下の洞窟を発見する。 その財宝を強奪してまんまと逃げようとしたが、巨人たち(キュクロペス)に追われ、 仲間のひとりは巨犬に引き裂かれるが、残るものは船にたどり着き、無事に逃げおおせた。
 この「(眠る)巨人」の伝説*3 は、前述のパウルスも記録している。

*1 ブレーメンのアダム (Adam von Bremen, Adam Bremensis) (11 世紀)著、『ゲスタ・ハンマブルゲンシス』第四部 「北方の島々の解説」Gesta Hammaburgensis ecclesiae pontificum, "Descriptio insularum aquilonis"
*1a
英訳:History of the archbishops of Hamburg-Bremen (訳者 Tschan, Francis Joseph, 1881-1947. New York : Columbia University Press, 1959, [再版 2002])(xlvi, 253 p.)

*1b ヴィクトル・リュードベリは、『ゲルマン神話』の 第59章等で、ブレーメンのアダムの著作を 「北方の島々の解説」ではなく De situ Daniæ 「ダニアの地」として紹介、また引用している("Et ecce instabilis..以下")。

*2 Tschan の英訳 (Book Four, pp.220-221) は、 「 AC2 および B クラスの写本を底本としている」ので、 オンライン化されている Waitz 編のラテン語テキストとは若干、差異がある。
 この箇所の Tschan 訳は、 [MapHist]にアップされていた:
Archbishop Adalbert of blessed memory likewise told us that in the days of his predecessor certain noble men of Frisia spread sail to the north for the purpose of ranging through the sea, because the inhabitants claimed that by a direct course toward the north from the mouth of the Weser River one meets with no land but only that sea called the Libersee. . .

*2a リュードベリ著『ゲルマン神話』(英訳)第 48 章 「中世サガ(続)。ブレーメンのアダムのフルジアのサガ」も参照。

*3 リュードベリも、「眠る巨人」の伝説のさまざまな記録を網羅してあたっている。

§ Olaus Magnus (16 世紀),

    オラウス・マグヌス (1490-1557年) は、ウップサラの大司教にのぼりつめた人物で、スカンジナビア地方・北海の『海図』(Carta Marina, 1539 年) *1を著した。  これは地図であるだけでなく、海洋の珍獣など不思議な現象について説明した資料である(例:大ウミヘビなどを図解入りで解説)。

 そうした奇異な事象のひとつとして、図入りで説明するのが "Rost"島 "Lofot"島 Vast"島 のあいだに発生する大渦巻きで、地図上(挿絵)では "Hic est horrenda caribdis" 「これぞ恐ろしいカリブディスの渦巻きなり」と添え書きされている。 〔* オラウスの海図は、ミネソタ大学ベル図書館のページで画像アップされている。渦巻きがあるのは"Section B"の区画〕
 また、オラウスの海図の左下、枠線内に挿絵の詳細書きがあるが、こちらでは渦巻き("Section B" の F ") について "charibdes plures & horrende" と書いてあり、これはつまり「超カリュブディス」、すなわち本家本元であるシチリア島沖のカリュブディス Charybdis *2 をもしのぐ渦巻きを意味するらしい。


*1 Carta marina et descriptio septemtrionalivm terrarvm ac mirabilivm rervm in eis contentarvm / diligentissime elaborata anno D¯ni 1539 「北方の地の海図および解説、さらにはその奇物、丹念に作成、紀元 1539 年」 [再版: Uppsala universitetsbibliotek, 1986 年] zoomable map @ Bell Library, University of Minnesota

*1a The Northern Lights Route サイトも英文資料あり (The maelstromOlaus Magnus)

*2 ギリシア=ローマ神話のスキュラ Scyllaカリュブディス Charybdis は、 渦潮をひこおこす女性の怪物 (母娘?)で、北欧神話でグロッティの臼を回すフェンヤとメンヤ(姉妹?) と通じるところがある。

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