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雪解け水アイス・ブルックで鍛えた剣》*1 【武器:剣】 【シェイクスピア】

«Ice-Brook sword» [仮称]
sword of Spaine, the Isebrookes temper [1622 年 四つ折クウォルト版],
Sword of Spaine, the Ice brookes temper [1623 年 二つ折フォリオ版]*2
ヴェニスの救国の将軍、ムーア人オセローが、佩帯の剣をモンターノに奪い取られてしまった後、 しまっていた部屋から出してきた控えの名剣。

この「雪どけのつめたい流れで鍛えた剣」(『オセロー』第五幕第二場 新潮文庫 福田恆存(訳) p.178)でもって、オセローはイアーゴを負傷させ、みずから自害をはたした。 原文では 「雪」 = snow ではないので、新訳では「氷のような流れできたえたスペインの剣」などと訳される*3
    *1  和訳名「雪解け水で鍛えた剣」は、新紀元社『聖剣伝説II』 (Truth In Fantasy 39)での呼称を転用した。

     *2 原典での表記については、初期の印刷版 Othello, V, ii 1622 quarto edition と一年後の Othello, V, ii 1623 folio edition とで、綴りがこれだけ異なる。
 第2版では、「アイス小川ブルック」と読めるが、初版では「アイスブルック」という固有名っぽいことがわかる。以下、フォークス氏の説明を参照。

    *3 余談だが、ドイツ語では「雪解け」、「氷どけ」 Schneeschmelze , Eisschmelze といい、この -schmelze の語尾は、英語の smelt「製鉄(精錬)」 と同源語なのだ。
意味としては、<鍛造の工程で、凍てつくような川水でにらいだ剣>と とるのが一般的である。

§ 「アイスブルック」とはどの川か?そもそも「川」であるのか?

• 『Brewer's Readers Handbook』では、 具体的にスペインのサロの小川 [* 現今のハロン川 río Jalón。エブロ川の支流。]であると説くのであるが、その根拠が、旧ローマ植民地ビルビリス[*現カラタユド近郊]の出身だったマルティアリス Marcus Valerius Martialis (紀元40-104 年の人)の警句*4なので、『オセロー』の舞台である 16世紀後半のヴェニスと関連付けるのは、いささか強引と言わざるをえない。

• 一方で、甲冑専門家のフォークスは、これとはまったく異なる説明をしている。 一般的に目にされているシェークスピアの脚本では、 "Ice brooke" という綴りであるが、より初稿に近い 1622 年版四つ折り本では、 "Isebrooke" となっており、これはじつは鋼の名産地で鍛工の町であるオーストリアのインスブルックの英式呼び名だというのだ*5
 それでは「スペインの剣」であることと矛盾するじゃあないか、といわれればご尤もだが、これについても、追って説明があり、当時は、産地を偽称している工房刻印メイカーズ・マークなどは日常茶飯事的で、「スペインの剣」を騙ったオーストリアの作品の実例などいくつもあるとのことである。

— 画像元: EEBO*6
1622年版のタイトルページ。
— 画像元: EEBO*6
"Isebrooke" と綴られているオセローの台詞 1622 年版の 96ページ(作品は全 99 ページ。).
    *4 マルティアリス警句集『Epigrammaton』 第 IV巻 LV。サロ川(ハロン川)は、地元を流れる川であった。そして詩の内容も、同郷人のルキウスという人物を鋼に喩えて称えているのであるが、粗訳すると:
"ビリビリスは至上の金属をほこり/ それはカリベスやノリクムにさえもまさる / さらには鉄の音なりひびくプラテア島にも。/ とりまくハロン川の / わずかなるも猛りし流れは / 武器を鍛えたる"
「カリベス」 Chalybes は、小アジアの地名で、正確な場所は今ではわからないが、鉄の名産地のきこえたかく、 ギリシア語で「鋼」を意味する chalybs は、その地名からとられている。

    *5 当時の英国で「インスブルック」のことを「イセブルク」となまらせて呼んでいたことの 裏づけとして、フォークスは似たような例を拾いあげている: 『イギリス国家文書(State Papers Domestic)』には、"Isebruk" の鋼を購入した記録があるというのだ。
 そのうえで劇作の初版ではオセローの剣は「イセブルクの剣」とあり、これはあきらかに 「インスブルック市」の英語形であると言っている。フォークスの原文は次のとおり: :
"..In the earliest editions of the play the word is "Isebrooke," which is obviously the anglicized version of Innsbruck1.
1 The quotation continues, "a sword of Spain." We find many Solingen or Passau blades bearing the marks of Spanish sword-smiths.
—Charles ffoulkes 著
『The Armourer and his Craft』 p. 38
→Amazon ISBN: 0-486-25851-3 ¥ 1,590

    *6 画像の入手先は、 EEBO (Early English Books Online) プロジェクトだが、 一般的に加盟団体(おもに在英米の大学・大図書館など)の敷地内で接続するか、アカウントを所持していないとアクセス不可能である。
15-17 世紀に英語で出版された 125,000 点 (同作品の異本や断片も含む)がオンライン化 (TIFF / PDF ファイル)されている。一部はテキスト化されているものもある。
 EEBO コレクションの中核をなすのが、『Short Titles Catalogues』に掲載されている作品群で、 それらには参照用に STC 連番がつけられている。(『オセロー 1622年』は STC 第2版 22305)

§ 戯曲の終幕のあらすじ

 ここいらへんの出来事はすべて、オセロがイアーゴの謀略にのせられ、妻のデスデモーナが不義密通をおかしていると すっかり信じこみ、怒りつのって圧殺してしまった後の祭りでの展開である。

イアーゴの妻エミリアは、仕えた婦人の死を嘆き悲しみ、デスデモーナの潔白をオセローに訴え、イアーゴの策謀を告発するが、 かえってオセローの燗にさわり、剣をふりさげようとするところを、モンターノとグラティアーノに取り押さえられて、 (最初もっていた)剣を取り上げられる。ところが悪いタイミングでイアーゴがあらわれ、口を割った妻をみずからの手で殺めてしまう。

オセローは、自室に控えてあった(二つ目の)「スペインの剣」でイアーゴを追い回し、手傷を負わせるが、致命傷には到らない。 この同じ剣で、苦悩にさいなむオセローは自刃して果てる。イアーゴの処罰は、あらぬ嫌疑をかけられた不義の相手、 副官カシオー(カッシオ)の裁量にゆだねられる。
   


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