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グローッティ Grotti 【アイテム:魔法(殖産)】 【北欧伝説】

Grótti, Grotti [古ノルド/アイスランド語]; Grotti, Grotte [英訳]

のぞみのものを好きなだけ挽き出すという魔法の石臼 (kvern [古ノルド語], quern [英]) *1

 一説では ヘンギキェプト [=ヘンギキョプト] Hengikjöptr という名の者が、 フロジ王 Fróði konungr に与えた。
 この石臼を挽きまわすことができるものは、奴婢(ambáttir *2 の姉妹、〔* 巨人族の〕フェンヤ Fenjaメンヤ Menja だけだった。
 フロジ王は、黄金と平和と幸福を所望したという。
[* このことから、物語の王は、神話的史上の「平和のフロジ」Frið-Froði すなわち、サクソの『デーン人の事跡』に書かれるフロド3世 Frodo と考えられる。 ]

 王は、休むいとまもろくに与えずフェンヤとメンや酷使した。癇にさわった彼女らは、不吉な歌 「石臼の歌グロータセング Gróttasöngr を歌いだした*3

 スノッリによれば、姉妹は海王ミュシング Mýsingr と海の兵たちを呼び寄せ、 フロジ王は討たれ、石臼と姉妹も持ち去られた。しかし彼女らがちょうど塩を挽いている最中に、 船が沈没した。沈没の後は、大渦巻き (svelgr) となった。

—フェロー島の 2001 年切手シート
"Myths and Legends about Light and Darkness"
グロッティをまわす姉妹たち ここでは見にくいが銀色で "Fenja og Menja / Donsk frumsøgn" と刷られている。


Fenja & Menja featured on a minisheet, issued by Åland in 2004.
—英文紹介は、Top of the World ~ ですが、 JPS童話切手部会の 会報「童話」186号より:北欧神話 NORDIN 2004 8カ国 のページをご覧下さい。

*1 スノーリの散文エッダ 『詩語法』第42章 (FJ 1907 版および Brodeur 訳) (=Guðni Jónsson 版第54章)。Anderson 英訳も参照。

*2 スノーリはここで、「召使女」を意味するambáttir (ambát の複数形) を使っているが、成句(ケニング)としての Fróða þýja meldr 「フロジの召使女たちの挽粉」は「黄金」 の比喩として Cleasby-Vigfusson 辞書に載っている。典拠は 『灰色外套のハラルドのサガ』Haralds saga gráfeldar で引かれる Eyvind Finnson 作のスカルド詩。

*3 このエピソードと「石臼の歌」は、場合によっては『詩エッダ』 に編入されることがある。

§ Maelstrom メールストロム

 石臼の水没のあとにできた渦巻きというのは、おそらく北極圏内のノルウェー沖に出現するモスケンの メールストロム mælstrom*1のことであろう。


*1 Northern Lights route サイトに The maelstrom など英文解説や画像がアップされている。
特に、Olaus Magnus の地図には、モスケンの渦巻きを含む 自然界の奇異のイラストや、海獣のイラストが載っている。その画は、別途複写してメールストロムサイトに掲載した。

§ Snorri Sturluson (1179 - 1241 年頃) Skaldskaparmál

 じつはスノーリの『詩の語法』のなかでも、グローッティについて触れているくだりが別にある。 スネービェルン Snæbjörn のスカルド詩*1の引用であるが、 文中でアムロージ Amlóði すなわち悩める王子ハムレットに ついて言及されているので、関心が集まっている。

 以下、Brodeur による散文エッダ英訳などをもとに和訳した。
 イズラエル・ゴランツ Gollanz が捜し求めて世に出した『Amloðe the Fool /Ambales 』*2に、このスカルド詩の分析・翻訳が見えるので、それも付け加え、フィンヌル・ヨーンソン編の『詩の語法』引用詩の読み下しを併記した:

Sem Snæbjörn kvað:
"Hvatt kveð hræra Grotta
hergrimmastan skerja
út fyrir jarðar skauti
Eylúðrs níu brúðir,
þær er, lungs, fyrir laungu,
líð-meldr, skipa hlíðar
baugskerðir rístr barði
ból, Amlóða mólu."
Hér er kallat hafit Amlóða kvern.

    — Prose Edda: Skaldskaparmál
[Gollancz, Israel 著 『Hamlet in Iceland』 xi]

スネービェルンは、かく歌いし:
人伝うに、何がグロッティを動かすか、
大地の隅のはてにある、
いと群兇なる岩礁の、
島臼を九人の嫁が[動かす]
Of Grótti's Island-Flour-Bin
They who long the corny ale ground
Of Amlódí; the Giver
Of Rings now cuts with ship's beak
The Abiding-Place of boat-sides.
Here the sea is called Amlódi's Churn.

—Brodeur's trans., Prose Edda: Skaldskaparmál 25 ("periphrases for the sea")

'Kveða ní brúðir eylúðrs hræra hvatt hergrimmastan skerja grotta út fyrir jarðar skauti, þær er fyrir löngu mólu Amlóða lið-meldr; baugskerðir rístr skipa hliðar ból lungs barði."
—Gollancz による散文読み改め
九人の岩礁の乙女ら(アィギルの娘=「波」)は、大地の向こうに、もっとも敵意ある島の 挽き臼(=「わき返る海」)を、大いなる力によりかき回す――はるか昔にハムレット の挽き臼(=「海」)をひいたように――黄金の輪をはずす者(=「宝物の授与者であ るよき支配者」)はかくして船の鋭い舳先で船の外衣(=「波」)を分け進むのである。 [ここでは海はハムレットの挽き臼と呼ばれている。]
    — 伊藤 盡 
「ハムレットの父の系譜と Anglo-Saxon Kingdom の王の系譜:神話と歴史文献学との狭間についての研究ノート」Colloquia 20(1999) pdf
133. Kveða (menn segja) niu skerja brúðir hrœra hvatt hergrimmastan (mannskæðan) ey-lúðrs (hafs) Grotta út fyr jarðar skauti, þær es fyr löngu mólu Amlóða meldrlið (hafið, þ. e. settu hafið i hreifingu sem kvern væri snúið); baugskerðir (mk) ristr lungs (skips) barði skipa hliðar ból (hafið)
—Finnur Jónsson による散文読み改め

*1 スノーリの散文エッダ 『詩語法』第25章 (FJ 1907 年版 ・ Brodeur 英訳); = 『詩語法』第34章 (Guðni Jónsson 1945年版);

*2 Gollancz, Israel, Hamlet in Iceland (London, 1898). アイスランド語テキストと英訳。この話にまつわるバラード数点などや幽霊の話等も収録。

§ Asbjörnsen & Moe

 ノルウェー民話にも魔法の石臼の話は残されていてアスビョルンセンとモーの民話集*1にも挿入されている。

 この民話と同じ物語は世界各国にあるということで、アールネとトムソンの分類法 (Arne-Thompson motif index) では "AT 565: The magic mill" の『昔話の型』とされている。

 民俗学の大老の柳田國男(1865-1962年)の収集した『日本の昔話』*2 にも、 「海の水はなぜからい」という一篇(岩手県の陸中上閉伊(かみへい)郡で採集したもの)があり、ノルウェー民話とそっくりである。
 善良な弟が、森の小人に出会い、「麦饅頭」と引き換えに、右へまわすと好きなものが出、左に回すと止まる「石の挽き臼」を得るが、強欲な兄が奪って塩が出っ放しになり船が沈んでしまう。

*1 Asbjørnsen, Peter Christian, 1812-1885 and Moe, Jørgen Engebretsen, 1813-1882. Norske folke-eventyr, "Kvernen som står og maler på havsens bunn".
英訳では、 Andrew Lang 著『The Blue Fairy Book』 "Why the Sea is Salt"にある。

*2 柳田 国男(やなぎた・くにお) 『日本の昔話』p.120 (新潮文庫や15・3 1983年) →Amazon.co.jp ISBN: 4101047030¥380


Sources:

Links:

  • 幻想世界神話辞典 グローッティ

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