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Chrysaor クリサオル 【武器:剣】【英国ロマンス】

[剣名]
Chrysaor [英]; クリセイオー (ちくま文庫)
[語源 < 希 Chrysaor Χρυσαωρ は直訳すると「金の剣」を意味する。なお、ギリシア神話のクリュサオルは、斬首されたメドゥーサの首のなかから生まれた人間の姿をした生き物で、有翼の馬ペガサスとは兄弟である。
 これと 《マカベウスのユダの黄金の剣》 の関連について ちくま文庫版の脚注では説かれていたが、その解釈には無理があると思う。 というのは、ユダ・マカベウスについての原典である旧約外典『マカバイ記下』15の15 (Maccabees 15:15)にみえる「剣」を意味するギリシア語は romphaia であり、aor ではないからだ。
 騎士の名前は、モンモスのジェフリー著『ブリタニア列王史』III, xvii に登場する、 ブリテンの王アルスガロー Arthgallo が改悛する美談からとられているのではなかろうか。 なので、剣の名前も、同 IV, iv で触れられているユリウス・カエサル帝王の剣 ⇒「黄色の死(クロケア・モルス)」 をヒントにしたのかもしれない。 ]
(+)--- 後日に知ったが、『ブリタニア列王史』には、アーサー王の宮廷で聖霊降臨節を祝う賓客のひとりとしてウォーリック伯アルテガルが登場する。詳細は下の特別欄に。 ---(+)

正義を擬人化した象徴であるアルテガル(アーセガル?)の剣。 かつてはギリシア=ローマの主神ジュピターの剣で、アダマントの鉱石から鍛えられていた。

*1 ちくま文庫 エドムンド・スペンサー作 『妖精の女王』〈3〉和田 勇一・福田 昇八 訳→Amazon.co.jp (¥ 1,470)。 従来、スペンサーのこの作品は『神仙女王』と呼ばれてきている。

§ Edmund Spenser 1552?-1599. The Faerie Queen (1590).

 正義の権化アルテガル(アーセガル)は、エリザベス朝時代の英国の代表的なロマンス『神仙女王』第5部 The Faerie Queen, Book V の英雄である。
 本来は、せっかくの新訳をもっと活用すべきであろうが、自訳で間に合わせることにする。

 アルテガル(Artegal, Arthegal, Arthgallo, Artegall) は、 赤子の頃よりアストレア Astræa という婦人に育てられ、 正義の道をしつけられる *1

Thus she him trayned, and thus she him taught,
In all the skill of deeming wrong and right,
Vntill* the ripenesse of mans yeares he raught*;
That euen wilde beasts did feare his awfull sight,
And men admyr'd his ouerruling might;
Ne any liu'd on ground, that durst withstand*
His dreadfull heast, much lesse him match in fight,
Or bide the horror of his wreakfull hand,
When so he list* in wrath lift vp his steely brand.

Which steely brand, to make him dreaded more,
She gaue vnto him, gotten by her slight
And earnest search, where it was kept in store
In Ioues eternall house, vnwist of wight*,
Since he himselfe it vs'd* in that great fight
Against the Titans, that whylome* rebelled
Gainst highest heauen; Chrysaor it was hight;
Chrysaor that all other swords excelled,
Well prou'd* in that same day, when Ioue those Gyants quelled.

For of most perfect metall it was made,
Tempred with Adamant amongst the same,
And garnisht all with gold vpon the blade
In goodly wise, whereof it tooke his name,
And was of no lesse vertue, then* of fame.
For there no substance was so firme and hard,
But it would pierce or cleaue, where so it came;
Ne any armour could his dint* out ward*,
But wheresoeuer it did light*, it throughly shard.*
彼女はかのごとく彼を鍛えこんだ、かのごとく修めさせた
正邪を見極める術のあまねくを。
そのうち[アルテガル]は、成人の年頃に熟し、
野獣さえもが、そのおぞまじい姿に恐怖した。
人もその圧倒する力に憧れた。
地に住まう誰とて、その命令に歯向かう意気地はなかった、
よって、喧嘩で仕合うなどなおさらのことだった。
あるいは、怒り任せに鋼鉄の焼刃をふりかざすとき、
その執念深き手の恐ろしさに耐えるなど。

その鋼鉄の焼刃は、人が彼をよりいっそう怖じるようにと、
彼女が彼に贈ったものだった。それは、ほんの少しばかし、
まじめに捜索したら得ることのかなったものであった。
ジュピターの永遠なる家に人知れず保管されていた。
それはジュピター御自らが、かの大いなる戦いで使ったのだ、
かつて天に向かい反乱せり巨人族ティターンを相手取る[かの戦いで]。
その名もクリサオルと呼べり。
クリサオル、すべての剣にまさる剣。
そのことはジュピターが巨人どもの伐で立証済みなり。

なぜなら、それはもっとも完璧な金属からできていた。
それらと一緒にアダマントで鍛えられていた。
そして刃は金で飾られていた、もののみごとに、
よってそこから「黄金の剣クリサオル」と名づけられたのだ。
知名度もさることながら、性能でもおとらなかった、
この剣にかかれば、どんな物質だろうと、頑丈か硬すぎて
貫通や両断できないことはない。
また、いかなる鎧も、その衝撃を防禦するにおよばず、
剣が直撃したところは、完全なまでに砕けた。

 アルテガルは、その後しばしして剣を使う契機を得る。
 それは、ポレンテという名のサラセン人がいて、橋の番をしており、 すべての通行人から通行税を取り立てていたのだ。
 橋には罠が仕掛けてあり、作動させると通行者が急流のさかまく川に転落するからくりになっている。
 アルテガルが橋のたもとにさしかかると、「頭が生禿の悪人」 "villaine. . with scull all raw" (すなわちサラセン人に仕える禿頭の馬丁)が寄ってきて、通行税を要求した。 しかしアルテガルは、「ほら、これが駄賃だ」"Loe there thy hire" と言って、一太刀のもとに切り捨てた。
 怒った異教徒は、アルテガルに襲いかかり、橋の真ん中で馬上での激戦がおっぱじまった。何かのはずみで罠が動き、両者は川水に転落した。
 サラセン人とその馬は、泳ぎは達者であったのだが、アルテガルの万力のような手が鉄製の襟首をひっしとつかみ、喉笛をくだかんばかりだった。そのアルテガルのほうがむしろ息が続くありさまで、サラセン人は岸辺にすがって陸に這い上がろうとしていたのだが、そこを:
With bright Chrysaor in his cruell hand,
That as his head he gan a litle reare
Aboue the brincke, to tread vpon the land,
He smote it off, that tumbling on the strand
—Book V, canto 2
まばゆいクリサオルをその残虐な手にし、
[サラセン人が]頭をいくばくかもたげさせ、
岸辺の上に頭をのぞかせ、陸に踏みあがろうとしたそのとき、
[その頭を]打ち落とせば、頭は川原にころげるなり、
   
*1 Edmund Spenser, Faerie Queene, Book V, Canto I

—Tate Collection
Chrysaor
John Hamilton Mortimer 1740-1779 作の絵画、"Sir Arthegal, the Knight of Justice, with Talus, the Iron Man " (1778 年に展示)

§ ジェフリー・オブ・モンモスの『ブリタニア列王史』のウォーリック伯アルテガル

 『ブリタニア列王史』の写本は多数あり、編者や訳者によって登場人物名・地名などは異なってくる。 私蔵のエヴァンズ英訳版では、「カーグエット(すなわちウォルグイット)のアルスガル」という表記になっており、これはサン=マルテ編のラテン語テキストと一致する。
".. Arthgal of Carguet, that is also called Warguit"
— Sebatian Evans tr.,
The Histories of the Kings of Britain, IX, xiii, p.169
"..Arthgal Cargueitensis, quae Warguit appellatur.." [L.]
— Albert Schulz [=San-Marte] ed., Gottfried's von Monmouth, Historia Regum Britanniae,.. und Brut Tysylio, p.132 .

ソープ (Lewis Thorpe)の英訳では、同じ人物が「グウェレンシス(現今のウォーリック)のアートグァルチャー ("Artgualchar, Earl of Guerensis which is now called Warwick" と、かなり異なった綴りで表記される。 ちなみにソープが用いた原文テキストは、ケンブリッジ大所蔵写本1706を底本としたグリスコム(Acton Griscom)編の1929年版。

ワースの古期フランス語版『ブリュット』では、「アルガル・ド・ウォーリュイック (Argal de Waruic)」と記される (Ivor Arnold 編 Le Roman de Brut de Wace; Flutre が集成した人名・地名コンコルダンス Table des noms..にも列記。)

Sources:

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