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Ascalon アスカロン 【武器:剣】 【キリスト教:聖人】【英国ロマンス】

Ascalon, Askalon (『Seven Champions』); Askelon (Percy の『Reliques』)
[語源: パレスチナの町名。十字軍遠征でも、聖ジョージの出現がしばし報告されたが、アスカロンの町はその戦略的位置にあった。]
 英国の守護聖人セントジョージ (*聖ゲオルギウス。紀元 303 年殉教) の剣。

これはリチャード・ジョンソン Richard Johnson (1573-1659?)作のキリスト教圏の七勇士(The Seven Champions of Christendom)』のなかで「七勇士」のひとりであるジョージに与えられている剣名である。作中では、ジョージはイギリスの良家の出身ということになっており、従来の聖人伝説にそわない脚色がいちじるしい。

 もっとも一般大衆化されている『黄金伝説』では、 聖ゲオルギウスの剣は「竜退治」にわずかな出番がある程度であり、無名である。また、竜の生贄の運命から救われる淑女(姫君) の名も記されていない*1
*1 よって Dictionary of Christian Biography の "Georgius (43)" の項(筆者は Rev. G. T. Stokes) の書き方だと、いかにも"Sabra"という王女の名が黄金伝説にあるようで誤解をまねきやすい:
. .The earliest trace we can now find of the full-grown legend of St. George and the dragon, and the king's daughter Sabra, whom he delivered, is in the Historia Lombardica, popularly called the Golden Legend, of Jacobus de Voragine, archbp. of Genoa, A.D. 1280, and in the breviary service for St. George's Day, till revised by pope Clement VIII. Thence it became the foundation of the story as told in Johnson's Historie of the Seven Champions of Christendom, and the old ballad of St. George and the Dragon, reprinted in the third volume of Percy's Reliques, many features of which Spenser reproduces in his Faëry Queen.

§ 黄金伝説 (13 世紀),

  ヤコブス・デ・ウォラギネ Jacobus, de Voragine (1229頃-1298年) があらわした聖人列伝 『黄金伝説*1(『Legenda Aurea』 には、カッパドキアの聖ゲオルギウス の章(Historia de Sancto Georgio)がおさめられている。

 邦書では、藤代 幸一 訳『黄金伝説抄』→Amazon が、ドイツ版 Legenda aurea - Sanct Georgからの重訳らしいが、私訳『聖ジョージの黄金伝説』も参考にしていただきたい。[* ラテン語テキスト部分(竜退治の部)は原文から訳出を試みた。 冒頭部(名前語源の部)と後部(殉教の部)は、キャクストンの英訳(The Golden Legend: St. George)*2 からとった。]

 そもそも黄金伝説では、聖ゲオルギウスが竜から救った姫君は無名で、 リビア州のシレナ市(provinciam Libyae in civitatem, quae dicitur Silena)の王の娘(filia regis)とだけ記されている*2。この都市では、竜を懐柔するために、市民の子供たちを、 くじ引きで生贄にさしだしていたが、だんだんその数が少なくなり、ついに王女のくじがひきあてられてしまうわけだ。

 ラテン語テキストでは、王は涙ながらに、娘の嫁入り姿は見たかったことを語ったり、娘を生贄にどうやって送り出したものかと途方にくれるくだりがあるが、キャクストン英訳のように「娘を婚礼さながらに装わせた」とはしていない(+)

 王女は、竜が伏する池か湖のほとりに連れて行かれる。そこにおせっかいな聖ゲオルギウスが通りかかり、 しつこく王女を問答攻めにする。ついに王女は身の上の一部始終を語るが、むざむざ命を落とすことはないと、早々に立ち去るようにすすめる。(+).

 竜が出現するとゲオルギウスは、馬に乗り、「十字架で己を護る」(cruce se muniens [羅]) (* ただしキャクストン英訳ではで十字架の仕草をしたことになっている)。 そして(lancea)をふるって怪我を負わせ、竜を地面にたたきつけると、 こんどは王女にむかって、 (zonus ζώνη)をほどいて 竜の首にくくりつけなさいと指示する。不思議と従順につきしたがう竜を都市に連れて帰り、 公の場で (gladio ῥομφαία) を抜いて竜を殺すが、黄金伝説では、剣名はあかされていない。
*1 キャクストン英訳 William Caxton (1422-91) 訳 (初版 1483年?) ここでリンクしているハイパーテキストは、綴りを正表記化している。





    *2 この「黄金伝説」のギリシア語版もある。テキスト(正本 Codex Angelicus, 46, s. XII, fol. 189- [Bibl. Angelica in Rome] 他、多数の異本を比較)は、 Aufhauser, Johannes B. 編 Das Drachenwunder des Heiligen Georg: nach der meist verbreiteten griechischen Rezension (1911 年) にあった。 そこでは都市の名はラシア Lasia (Λασία) となっており、 王にもセルビオス Selbios (Σέλβιος) という名が与えられていた。 王女は名が無くただ "少女" κόρη等と記されている。

§ 剣名の出所:『七勇士』 (1596年),

 調査の結果、セントジョージアスカロン Ascalonという剣名、および 聖人が助けた淑女の名前サブラ Sabra というのは、 Richard Johnson 作 The Most Famous History of the Seauen Champions of Christendome (1596 年) *1 の独創によるものという結論に達した。  以下は、この作品の序盤の章のあらましである:

 ジョージは王室執事長ロード・ハイースチュワード アルバートと王女のあいだにもうけられた子である。 王女の家柄、つまり英国王室は、アーネウスとその子アスカニウス Askanius に発し、ブリテン国の祖ブルータスにつながる家系である。新生児ジョージは、なんと右手に血だらけの十字架をもち、左脚に金色の帯(ガーター)を帯びて生まれた。 この母は、分娩で命尽きてしまい、生まれたばかりの赤子はカリブ Kalyb という魔女に拉致される。 ジョージがちょうど年頃(二掛け七歳)になったとき、魔女は青年に恋をしてしまい、あれやこれやと贈り物を与える。 最初の贈り物はベイヤード Bayard*2 という、またがった騎士を無敵にするという いわくつきの馬だった。

 次に、その胸に「武器庫アーマリーでもっとも頑丈なコースレット」を着せてバックルでとめてやり、 その頭に兜(のちに「イギリスの紋章の刻まれた」バーゴネット兜と詳述されている)をかぶせてレースを締めてやった。 甲冑は「リディアの純鋼」"purest Lidian steele" でこしらえたもので、「いかな武器も貫けず、いかな戦斧も傷つけられない」つくりだったという。そしてもちろん、豪華な騎士の盛装カパリソンで着飾らせた。

 魔女は、「立派なフォーション剣 fauchion を取って差し出し」、青年にあてがった馬や鎧や剣について 次のように語る(本の画像 更新追加)

—米パサディーナ市、ハンティングトン図書館 / 唯一現存の本
EEBO プロジェクトより画像入手

.. thy steed is of such force and inuincible power, that whilst thou art mounted on hys backe, there can be no Knight in all the world so hardy as to conquere thee: Thy Armour of the purest Lidian steele, that neyther weapon can pearce, nor Battail axe bruse, thy sword which is called Ascalon is framed of such excellent mettle by the curious workman- ship of the Ciclops, that it will separate and cut the hardest flint, and hew in sunder the strongest steele, for in the pum- mell lies such pretious vertue, that neyther treason, witch- crafts, nor any violence can bee proffered thee, so long as thou wearest it.
The Most famous History of the
Seauen Champions of Christendome:..
,
Part I (1596), Ch. I, p.9.
そなたの馬が、どれほど力と無敵をほこるかといえば、 そなたが背にまたがるうちは、世界ひろしといえど、いかなる騎士をもってしてもそなたに打ち克つことはかなわない。そなたのリディアの純鋼の鎧は 武器でも貫けず、戦斧でも傷つけられない。 そなたの剣は、アスカロンという名だが、 極上品の金屬を、一つ目巨人サイクロプスたちが 珍妙なる匠の技をもって形作ったもので、どんなに硬い燧石ひうちいしも断ち切り、どんなに強いはがねも切り裂く。そして剣を帯びているかぎり、いかなる寝返りにも、魔法にも、暴力にもさらされないという希有なる徳(特性)が欛頭つかさきにこめられている。

 以上の贈答品はよしとして、あまっさえ自分の魔力をふるうための《銀のワンドの使用をゆるしてしまったことは、しかし魔女にとって致命的な失敗であった。ジョージがその杖を手にとって、ためしに閉ざされた岩を開けてみると、はたしてその岩穴は 魔女がいままで幼い命を奪ってきた乳呑児たちの屍が累々と棄てられた安置所であったのだ。ジョージは魔女に先導させてそこを案内させたが、 彼女が踏み入るやとたん、岩穴をもとどおりぴしゃりと封じて、彼女を幽閉してしまったのだ。
 そして自分と同じ境遇で捕らえられていた六人の青年勇士を解放した:すなわちイタリアの聖アンソニー、スコットランドの聖アンドリュー、ウェールズの聖デイヴィッド、アイルランドの聖パトリック、フランスの聖デニス(=サン・ドニ)、スペインの聖ジェームス(=大ヤコブ)である。他の聖人も、これよりそれぞれの冒険を遂行するわけだが、聖ジョージは、もちろんのこと竜から王女を救出するのである(第 I 部[前編] 第 III 章)。しかし救出した王女とめでたく夫婦になる部分は、当然、『黄金伝説』にはない部分である。

 また、ここでは王女救出の舞台もエジプト Egipt に移しかえられている。エジプト王は、娘を竜の生贄に差出しざるを得ないところ、竜を追いはらうことができる救国者あらば、王女の婿にとり、王亡き後の冠位の継承者とすることを公約した。勇士ジョージは、この艱難に挑むことにし、王女をなだめて宮殿に送り返した。 このとき王女は「アラビアのシルク」の衣装を身にまとっていたという[* つまり黄金伝説のキャクストン英訳の 「娘を婚礼さながらに装わせたをさらに脚色している]。  王女の名前がサブラ Sabraだと明かされるのはもう少し先*3の話であるが、そのおり、彼女には既に「モロッコの黒人王アルミドール」(Almidor the blacke King of Moroco)という先約の求婚者がいたことが判明する。

 さて、ジョージが対峙したドラゴンというのは、肩から尾にかけて50フィート(*十五メートル)、その銀色の鱗は黄銅より硬く、 その金色こんじきの腹は 「 トン樽」ほどもあった。 ジョージは、馬に乗り、槍をくりだしたが、竜に当たると「千もの砕片に砕けてしまった」。竜は尾をしならせて反撃し、騎士、乗馬もろとも 地につきとばし、ジョージは肋骨二本に打撲傷を受けた。ジョージはしかたなくオレンジの樹(Orringe tree*4 の木陰に身を寄せた。するとどうしたことか、ワーム は、枝の伸びた先より7フィート(*約二メートル)以内、近寄ることはしなくなった。
 小休息をつけたジョージは、竜のその「すべやかな黄色い腹」をアスカロン Askalon*5で太刀打したが、毒液がヴァーっとしぶいてふりそそぎ、甲冑は二つに裂けてしまった(どんな武器も歯が立たないはずのリディアの鋼も、結局このていたらくだった)。 運がいいことに、オレンジの果実には、「それを味わいさえすれば、その者は、いかなる病気も衰弱も(たちどころに)直る」というヴァーチュー(特性)があった。 ジョージは、戦闘を再開し、竜の翼下あたりの、鱗の覆わないやわな部位に一撃を命中させた。そして名剣アスカロンで、生命をつかさどる臓腑も血も骨も貫くと、紫色をした血糊がどっとあふれ出た。ジョージは竜を斬首し、その雁首を槍の柄 (trunchion of a speare)に突き立てた。
*1 (訂正 2009.10.31) このテキストは、近年 Fellows, Jennifer 編が発行されている The Seven Champions of Christendom, 1596-7, (Ashgate Pub Co 2003 年) [preview]。 最古の印刷本から第1部と第2部を収録 (よって1686年に継ぎ足された第3部は含まれない)。底本は:
  • The most famous history of the seauen champions of Christendome: : Saint George of England, ..Shewing their honorable battailes by sea .. (1st Part, 1596) [STC(2nd ed.)カタログ番号 14677]
  • The second part of the famous history of the seauen champions of Christendome: Likevvise shevving the princely provvesse of Saint Georges three sonnes, the liuely sparke of nobilitie. VVith many other memorial atchiuements worthy the golden spurres of knighthood [STC 2nd ed.カタログ番号 14678] 現本は16世紀末の印刷本で、テキストは<ブラックレター体>の古書体の活字だが、 固有名はふつうの<ローマ字体>になっている(Fellows 編本では固有名を斜体)。 なお解説のなかでは、作品を7chと略称している。

    *1a
  • The renowned history of the seven champions of Christendom, St. George of England (London, J. F. Dove 1824) [books.google] 第1,2,3部も収録されるので有用。 (訂正終末)

    $94.95 (変動価格) →紀伊國屋 (¥11,166+¥2,233)が刊行されている。また、EEBO のアクセス権があれば電子テキストも入手可能である。
        1596年初版は、一部のみ現存で米カリフォルニア州 Hunting Library 所蔵 (STC 14677). *2 大衆本版:Benjamin Tabart's のチャップブックでは、 馬名が Bucephalus、魔女 は Calyba、剣は無名。このチャップブック The seven champions of Christendom: A tale for the nursery (1804年) はファクシミリ画像で見ることができる(The Hocklifffe Project)。
    また Wilson, Spence and Mawman のチャップブックは The British champion; or honour rewarded (1797年?) にあるが、そこでは魔女は Calyt。

     大衆本の本格的なテキスト比較などはできていないが、竜殺しのイラストなどは The Elizabeth Nesbitt Room Chapbook Collectionサイトで2点を鑑賞できる:, W. S. Fortey : Bloomsbury History of the Seven Champions of Christendom (?年) and J. Marks : London edition The Surprising Adventures of the Seven Champions of Christendom (?年)。
    別サイトには T. Norris/ A. Bettesworth 版The Illustrious and Renown'd History of the Seven Famous Champions of Christendom (1719年)






















































        *3 ジョンソンは王女の名を創作しているが、『黄金伝説』ではリビア州シレーネ市の名も無き王女であったことを 思い出していただきい。王女の名としてはサブラ以外の名も伝わる。
     クレオドリンダ Cleodolinda王女だとする典拠は、どうやらゴッフレド・ダ・ブッセロ Goffredo da Bussero著 『Liber Notitiae Sanctorum Mediolanii (ミラノの著名聖人の書)』 (1290 年)であり、 このイタリア版では聖ジョルジョは、竜退治をイタリアのブリアンツァ Brianza 地方でおこなったことになっているらしい。
     王女の名をアルシオーネ Alcyoneとする伝承については不詳。


        *4  ジョンソンは、古来の『ビイヴィス卿'(ビーヴェス)』の竜退治の物語をアレンジしたのだろう。『ビーヴィス』では、乙女が沐浴した泉にそなわる治癒能力に助けられれ、竜退治をやり遂げることができる。
     オレンジ樹が竜の毒に効くというのは、ヘンルーダ(ミカン科の薬草)がバジリシクに効くという、ブルフィンチのギリシア神話 36章などにも散見する伝承によるのだろう。 これは元をたどればおそらく博物学者プリニウスであり、このように解説される:NH 20.51 ヘンルーダ(英語で"rue") 蛇 (serpents [英] serpentium[羅])などの毒にも効く、イタチ (weasels [英] mustelae[羅])はこの草を食して耐毒性をつける; また NH 8.33 (Latin 8.36) バシリスクとは蛇の一種である(basilisci serpentis est)、と。


        *5 ここ第 III 章では異なる綴り("k"入り)が使われている。
  • § 『神仙女王』第1部の赤十字の騎士(16 世紀)

    上の作品とほぼ時代をおなじくして書かれた、エドマンド・スペンサー 作『妖精の女王』 (The Faerie Queene) (1590 年) には、聖ジョージとおぼしき「赤十字の騎士レッドクロス・ナイト」 (Redcrosse Knight)という人物が登場するが、名がついた剣はふるっていない*1
        *1 だがBook V, Canto I では Sir Artegal(Arthegal, Arthgallo, Artegall)という正義の英雄がクリサオルChrysaor という剣をもつ。 これはかつて最高神ジョーヴ(ユピテル)がティターン族にたいして使ったという。

    § パーシーのバラード集 Percy's Ballads (18 世紀)

     ジョンソンの『七勇士』発行から一世紀弱たって、ある無名の作家(読み人と知らずではない)が、英国の守護聖人である聖ジョージをたたえるバラードをつくり、そのしめくくりの文句の中で「アスカロン」の剣を登場させている。

    このバラードは、パーシー主教 (Thomas Percy 1729-1811, Bishop) の 『古代英詩拾遺集Reliques of ancient English poetry*1に収録されている。
    パーシーがこれに与えた題名は "St. George for England: The second Part" (Reliques, Volume III, Book iii. 15.)だが、もとは 「The British Heroes: A New Poem in honour of St. George」 (1688 年) といい、作者はジョン・グラブ John Grubb (1645-97) という一介の教育者であった。

     《アーサーという王も、カリバーンという剣で、砥石や魔術師をからたけ割りにはしたけれど。だけど、聖ジョージは竜を斃し、 疫病まみれのひしゃげ音をくらわせた》というパターンで、古今東西の英雄と、いくつも比較がなされる。滑稽調の作品である。

     しめくくりの二行とリフレーンは以下のとおりである*2
    But George he shav'd the dragon's beard,
    And Askelon was his razor.
    St.George he was for England; St. Dennis was for France;
    Sing, Honi soit qui mal y pense.
    だけど、ジョージは、竜めの顎鬚を剃りおとし、
    その剃刀かみそりはこれぞアスケロン。
    英国は聖ジョージ明神、フランスは聖ドニ菩薩
    いざ歌え「思い邪なる者に災いあれ」と
        *1 この古書は、 1866 年版のファクシミリ再版Elibron社より出されている。(ISBN 1402173792 ペーパーバック $15.95 / ISBN 1402127626 ハードカバー $25.95). ウェブサイトには一部目次が(pdf 形式)でアップされている。以前は第1,2巻の目次すべてがPDFであったはず。ちなみに第3巻の目次は、ためしに作成してみた。サンプル的に、ここで解説する『聖ジョージの第二のバラード』とベン・ジョンソン策の魔女たちの呪文歌を掲載した。
     (+)最近、Books Googleでデジタル版XV. St George for Englandを見ることが出来るようになった。ただ、J. V. Prichard 共著の版では再編されていて、第9部"Book the Ninth" の第15歌になっていた。









        *2 このバラードの締めくくりの句は『Brewer's Readers Guide』 の "St. George"の項にもある。(直リンクではいかないので、をクリックして page 3 にナビすることが必要)

    § 聖ゲオルギオスの事跡と殉教

    初期の伝説(5~7世紀頃)だと、聖ゲオルギオスは、軍人として養成されたが、聖職者としてキリスト教の法を説く道にはいり 殉教したが、竜(あるいはそのような怪物)とは戦っていない。 [*よって当然、竜より救われた王女や竜殺しの剣名もない。]
     だが「ドラコン」の異名をとる ダディアヌス(王/知事) の迫害にあって聖人は刑死する。
    [* この頃キリスト教徒弾圧の法令のもとおこなわれたが、 こうした「過酷な摘発法」のことを西洋では「ドラコニアンな法」つまり「アテネの執政官ドラコンのごとき」 と呼ぶので、「弾圧法」の為政者に「ドラコン」というあだ名をつけることはごく自然なのである。]
     歴史にてらせば、ときはローマ帝国がキリストに改宗するコンスタンティヌス帝時代より数年前、 ディオクレティアヌス帝時代である。この皇帝は、何人かの共同皇帝と権力を分権した。 「ドラコン」とは、そのときキリスト教弾圧にもっとも積極的だった ガレリウス共同皇帝にちがいない。ガレリウスはそののち「キリスト教徒のたたり」とも思われる境遇におちいり っている。つまり晩年に奇病にかかり、態度を一遍してキリスト宗教緩和策をとったが、あまり命をながらえることが できなかった。[* 初期の伝説では「竜」ことダディアノス/ダキアノスは、天の怒りを買い、 神の業火に焼かれる。]
     初期の伝説では聖ゲオルギオスは、許婚はいたが、妻帯はせず童貞無垢のまま殉教したことになっている。 ではゲオルギオスが救った「王女」とは誰だろう?そもそもゲオルギオスが援けた高貴の女性とは「ドラコン」の 妻アレクサンドラのことだったのではないか。アレクサンドラは、ゲオルギオスに説かれてキリストに改宗する。 ゲオルギオス本人よりまっさきに刑死させられてしまうのだが、その魂は改宗によって救われた(地獄にいかずにすんだ) ということなのだろう。
    (これらについては聖ゲオルギウスとドラコンの初期聖人伝説で詳述する)

       

    § アスカロンの町

     アスカロンの町は、パレスチナ地方にある (地図参照)が、ゲオルギウスの生涯にかかわりが深かった 場所とは言いがたい。
     ゲオルギオスともっとも密接な関係にあるのは、 メリテネ Meliteneディオスポリス Diospolis (こと リュッダ Lydda だろう。地図参照。) 。

    メリテネ (カッパドキア東部。地図の範囲外)は、ゲオルギオスの父親アナスタシオス Anastasius の出身地で、 あるいはゲオルギオスの聖地だったかもしれない。ともかくゲオルギオスは自分を「メリテネの〜」よか「カッパドキアの〜」というふうに名乗っている。これは、父子代々の地元であるからそう名乗っただけかもしれない。
     しかしたとえ生まれがカッパドキア州だとしても、そこでは幼児期を過ごしたにすぎなく、 一家はじきにパレスチナに引っ越している。つまり、母方の親戚が影響力をふるうディオスポリスだが、 ここはゲオルギウスの実質的な郷里となったし、また、ここが永眠の地ともなったという。

    歴史はくだり、第三の十字軍遠征で、アスカロンやリュッダが重要な意味をなしてくる。
    Map:歴史的都市名を、イスラエルの現代地図に掲載した (正規イスラエルは緑、ヨルダン領イスラエル占拠下ヨルダン川西岸は褐色、イスラエル占拠が解除されたエジプト領ガザ地区はピンク色。)聖ゲオルギウスの地元はリュッダ(ギリシア語でディオスポリス)。    

    § 十字軍遠征

    [* 第一の十字軍(1095-99)にはじまり、聖ゲオルギウスが聖戦をたたかう教徒の前に出現した逸話はいくつかあるが、まだ 調査中なので、詳述はさける。]

    第三の十字軍のあった12世紀頃、聖ゲオルギウスの竜退治伝説を新たに持ち帰ったのが、 ヨーロッパで流行ることになったひきがねであったらしい。

    § 雑学・豆知識

  • 「泉の騎士」 (イヴァンに斃されたローディーヌの元の亭主)は、クレチアンのフランス語版では 「赤のエスクラドス」 Esclados le Rous だが、ハルトマンの中期高地ドイツ語版では、 「泉の騎士」の名はアスカロン Askalon である。参照:⇒《ルネットの指輪》
  • 「アスカロン」は、長ネギをさす語(英語で"scallion")の語源である。すでに プリニウスが「葱のことをユダヤではアスカロニアと称す] NH 19 (Alium. . cepae genera apud. . Ascalonia, ab oppido Iudaeae nominata)としている。
     古期英語の用語集である 『Old English Épinal-Erfurt glossary』 にも
    ascolonium = hynnilaec; ascalonium = ynnilec"
    として掲載されているが、このhynnilaec とは ynni- 「玉ねぎ(オニオン)」+ lec 「ポロねぎ(リーク)」のことである。

  • Sources:

    Links:

  • Saint George in English History is a comprehensive source. Surveys the early importation of the St. George cult into England before the Norman Conquest (and the Crusades).

  • Catholic Encyclopedia:

  • Mor Gewargis Sahdo (St. George the Martyr) at the Syriac Orthodox Resources website.

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