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アキナケス 【武器:剣】 【史実:スキタイ民族説】【史実:アケメネス朝ペルシア】

akinakes, acinaces [英]; άκινάκης [希]
(* "scimitar"と訳されることがしばしばだが、「シミタール」は曲刀なので誤解を招く。)

スキタイおよび北ユーラシアの遊牧民が使用した(短めの)直刀の一種。 また、アケメネス朝ペルシア(前550〜前331)で使用された剣。 つばが"双葉形"で、柄や鞘に装飾がこらされたもの。 形状にはかなりのバラエティーに富むが、下は、当時のレリーフに描かれた例である*1:

ペルセポリスの浮彫 (左) ペルシアのアキナケス (右) ペルセポリスにみられる短刀の形状






*1 Richard F. Burton 著『Book of the Sword』, p.210-11. バートンの書には、 ペルセポリス(四十柱宮殿など)の浮彫像で、人物に佩刀されたり握られたりする剣のスケッチが掲載されている。 うち、いくつかはポーター(Robert Ker Porter, Sir 1777-1842) 筆で『 Travels in Georgia, Persia, Armenia, ancient Babylonia, &c. &c. during the years 1817, 1818, 1819, and 1820』に挿入されている画をもとにしている。
Livius site のサイトは、多くの浮彫りの写真を自由提供している。(提供者 Livius である旨の一筆は入れること。)ここにもアキナケス剣を携えた人物像が拾える。一例: Apadana audience relief, Persepolisのページ。

§ ペルシアの武器

 ヘロドトスが語るに、ペルシアの将軍インタプレネスIntaphrenes [希] Vindafranâ [古ペルシア])が、アキナケス剣を もちいてダレイオス(ダリウス)王の門番と伝令の耳鼻をそぐという狼藉をはたらく。
 将軍は、王位を簒奪した魔術僧マゴスガウマタを滅ぼした (つまりダレイオスを今の地位につけた)七人の謀略者の一名だったので、七人の仲間の王とは対等同然、 挨拶なしに王室に立ち入りする権限を主張したのだったが、門番らはどかずに、ただいまは王は閨事にご執心中である、 と通せんぼをしたので、かっとなった腹いせにこの刃傷沙汰をしでかしたようである*1

 さて、このアキナケス剣は、まぎらわしいことに、英語でしばしば "scimitar" (偃月刀)と訳されるが、 実物は曲刀ならず直刀である。
 直刀であることについては、ヨセフス*2 が、出没する盗賊団の説明の中で アキナケスが曲刀ではないことをはっきりさせている。

 クセノフォン *3は、キュロスがシュエンネシスへの に贈答した物品のなかに「金の短剣(アキナケス)」があったと報告している。

 クルティウス・ルフスは、そのアレクサンダー大王伝のなかでペルシア王 (ダレイオス)の豪華ないでたちを 描写している:*4: ]

Cultus regis inter omnia luxuria notabatur: purpureae tunicae medium album intextum erat, pallam auro distinctam aurei accipitres, velut rostris inter se concurrerent, adornabant et zona aurea muliebriter cinctus acinacem suspenderat, cui ex gemma vagina erat.
— Historiarum Alexandri Magni Macedonis III.iii.17-18
..紫色の上衣の白色に織り込まれ、金錦の外套には、金色の鷹がくちばしを突きあわせるように 飾られ、まるで女性の金帯のような剣帯にアキナケスを下げ、 鞘はすべて宝石でできていた。
— 私訳

 また、(ダレイオス王を克服した)アレクサンドロス大王も、ペルシアの武器甲冑を パルテノン神殿に奉じ、そのなかには「金をかぶせたアキナケス剣」akinakes epichrusos άκινάκης έπίχρυσος が混じっていたことが、 銘文に書き残されている (Inscriptiones Graecae 1.170.17)


*1 Herodotus, 3.118. この門番虐待のエピソードでは、A.D. Godley は akinakes を "scimitar" と訳している。しかし、別所 (Hdt. 7.54)では、"acinaces"と呼ぶ剣と訳している。 (クセルクセス王が儀式で神酒・その瓶・金鉢・アキナケスを海に投じるくだり)。
 さらに脚注では、「これは時おりシミタールとも訳されるが、シミタールは私の知るところでは曲刀なのであって、άκινάκης はどうやら短めのまっすぐな短刀だったようである」と、シミタールと訳することの矛盾を心得ていることを示している。

*2 シカーリ盗賊団 sicarii は、アキナケス大の武器を使っていたが、、その形状はむしろ曲がった シ剣 sica (「大鎌」の意)のそれに似たので、そのことにちなみ彼らを(シカーリと)名づけたのである 『ユダヤ古代誌』Josephus AJ 20.186
 ちなみに英語版 Wikipedia 「Acinaces」の項 でもヨセフスの 記述にふれており、前述 Burton 著書 p.210-11 にも直刀。

*3 Xenophon, (Anabasis 1.2.27)

*4 クィントゥス・クルティウス・ルフス『アレクサンドロス大王伝』(西洋古典叢書 谷 栄一郎 (翻訳), 上村 健二 (翻訳))→Amazon) Quintus Curtius Rufus, Historiarum Alexandri Magni Macedonis III.iii.
ラテン語テキストは複数サイトで掲載されているが、いまだ英訳はオンライン化されていないようである (上サイトの管理者は、この作品をラテン語学習の教材として重宝するので、アンチョコの英訳が出回ること自体に反対のようだ)。 有料ならば、Brainfly.net サイトで John C. Rolfe 訳 (Loeb 文庫版)のダウンロード($9.95)、あるいは 古代史の一次資料コレクションCD 販売 ($64.95 CD x 3 枚。送料無料)
 なおLatino vivo:Curzio のサイトでは、問題のくだりと、イタリア訳が掲載されている。

vaso di Dario すなわち、いわゆる「ダレイオスの壷」。南イタリアのカノッサで発見された壷。

[このクラーテル壷の現物のカラー写真集は、Araldo de Luca 氏のサイトで見ることができる。 また、 "war council" と題した壷の絵の模写は: alexanderstomb.com image library を見るといい]

§ スキタイの軍神の象徴(ご神体)としての剣

 ヘロドトスの『歴史』によれば、アキナケス剣はスキタイ民族がその軍神 (ギリシアのマルスに相当する神)を祀るのに使われるという*1
 ここでヘロドトスはその軍神のスキタイ語の呼び名を記さなかったのは残念きわまることである。 他の主要な神々のスキタイ名は記録しているのだから(以下、表を参照)

 『歴史』によれば、スキタイ民族は、他の神にも贄をささげたが、他の神の場合は祠やら神体やら無しで 生贄を献じたらしい。(たとえば「竈の女神」にたいしては、おそらく何らか文句を唱えて動物を屠殺するなど。)
 しかし軍神にかぎっては、柴木を積み上げた小丘をつくって「マルス」の神殿とし、 その上につきたてたアキナケス剣を、軍神の象徴(神体)とみなしたのだそうだ。 この神殿は、行政区域ごとに作られ、保守整備されていた。
 また、軍神への生贄は生口せいこうも含まれていて、 敵の捕虜百人に一人の割合でその頸を掻き切って血を鉢に受け、柴木の丘にささった剣に注いだという。

 後世になって、フン族の王アッティラが、牧夫が土から掘り出した剣を献上されて、それをことさらに愛でて これこそ《マルスの剣》 (gladius Martis [羅]) なりと宣言したが、それはスキタイ族が軍神としてあがめた剣に相違ないという発言だったのである。
    スキタイの神々の一覧表
    ギリシア・ローマにおける同等の神 神のスキタイ名 特記
    ヘスティア/ウェスタ
    Hestia / Vesta
    タビティ
    Tabiti Ταβιτί
    竈の女神。「特にこの神格を礼拝する」
    ゼウス/ユピテル
    Zeus / Jupiter
    パパイオス
    Papaios Παπαῖος
    最初の人間タルギタオスの父 (?) (ヘロドトス 4.5)
    ガイア「大地
    Gaia "Earth" / Tellus
    アピ
    Apia Ἀπί
    パパイオスの妻。
    アポロン
    Apollo
    ゴイトシュロス
    Goetosyrus Γοιτόσυρος
    アフロディテ・オウラニア/天空のヴィーナス
    Aphrodite Ourania /
      "celestial" Venus
    アルギンパサ
    Argimpasa Ἀργίμπασα,
    エナレエス〔* Ἐναρέης 両性具有アンドロジナスな占術師〕たちに、しなのきの樹皮を使った占いを教えた (ヘロドトス 4.67)
    ヘラクレス
    ?? スキタイ王家の祖、スキュテースの父(?) (ヘロドトス 4.8~9)
    アレス/マルス
    ?? この軍神にかぎってのみ、神殿や神体が作られる。
    ポセイドン/ネプチューン
    Poseidon / Neptune
    タギマサタス
    Thagimasadas Θαγιμασάδας
    "王族" (パララタエ)が崇めて生贄をささげる。
    *カナ表記については世界神話伝説辞典さんにあるものと合致させた。



*1 ヘロドトス『歴史』 Hdt. 4.62。 別の英訳としては、Herodotus Book 4 [The Persian Wars, G. Rawlinson 英訳, 1942 年]も参照。

§ 中国の史書

考古学上、「アキナケス型」剣の亜種に分類される剣として、 径路(刀) jinglu dao が挙げられるが、 これは中国の史家が、匈奴(フン族)の剣としているタイプである。

Sources:

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