§ ペルシアの武器
ヘロドトスが語るに、ペルシアの将軍
インタプレネス (
Intaphrenes [希] Vindafranâ [古ペルシア])が、
アキナケス剣を
もちいてダレイオス(ダリウス)王の門番と伝令の耳鼻をそぐという狼藉をはたらく。
将軍は、王位を簒奪した
魔術僧ガウマタを滅ぼした
(つまりダレイオスを今の地位につけた)七人の謀略者の一名だったので、七人の仲間の王とは対等同然、
挨拶なしに王室に立ち入りする権限を主張したのだったが、門番らはどかずに、ただいまは王は閨事にご執心中である、
と通せんぼをしたので、かっとなった腹いせにこの刃傷沙汰をしでかしたようである
*1。
さて、このアキナケス剣は、まぎらわしいことに、英語でしばしば "scimitar" (偃月刀)と訳されるが、
実物は曲刀ならず直刀である。
直刀であることについては、ヨセフス
*2 が、出没する盗賊団の説明の中で
アキナケスが
曲刀ではないことをはっきりさせている。
クセノフォン
*3は、キュロスが
シュエンネシスへの
に贈答した物品のなかに「金の短剣(アキナケス)」があったと報告している。
クルティウス・ルフスは、そのアレクサンダー大王伝のなかでペルシア王 (ダレイオス)の豪華ないでたちを
描写している:
*4:
]
Cultus regis inter omnia luxuria notabatur: purpureae tunicae medium album intextum erat, pallam auro distinctam aurei accipitres, velut rostris inter se concurrerent, adornabant et zona aurea muliebriter cinctus acinacem suspenderat, cui ex gemma vagina erat.
— Historiarum Alexandri Magni Macedonis III.iii.17-18
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..紫色の上衣の白色に織り込まれ、金錦の外套には、金色の鷹がくちばしを突きあわせるように
飾られ、まるで女性の金帯のような剣帯にアキナケスを下げ、
鞘はすべて宝石でできていた。
— 私訳
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また、(ダレイオス王を克服した)アレクサンドロス大王も、ペルシアの武器甲冑を
パルテノン神殿に奉じ、そのなかには「金をかぶせたアキナケス剣」
akinakes epichrusos άκινάκης έπίχρυσος が混じっていたことが、
銘文に書き残されている (
Inscriptiones Graecae 1.170.17)
vaso di Dario すなわち、いわゆる「ダレイオスの壷」。南イタリアのカノッサで発見された壷。
§ スキタイの軍神の象徴(ご神体)としての剣
ヘロドトスの『歴史』によれば、 アキナケス剣はスキタイ民族がその軍神
(ギリシアのマルスに相当する神)を祀るのに使われるという *1。
ここでヘロドトスはその軍神のスキタイ語の呼び名を記さなかったのは残念きわまることである。
他の主要な神々のスキタイ名は記録しているのだから(以下、表を参照)
『歴史』によれば、スキタイ民族は、他の神にも贄をささげたが、他の神の場合は祠やら神体やら無しで
生贄を献じたらしい。(たとえば「竈の女神」にたいしては、おそらく何らか文句を唱えて動物を屠殺するなど。)
しかし軍神にかぎっては、柴木を積み上げた小丘をつくって「マルス」の神殿とし、
その上につきたてたアキナケス剣を、軍神の象徴(神体)とみなしたのだそうだ。
この神殿は、行政区域ごとに作られ、保守整備されていた。
また、軍神への生贄は 生口〔〕も含まれていて、
敵の捕虜百人に一人の割合でその頸を掻き切って血を鉢に受け、柴木の丘にささった剣に注いだという。
後世になって、フン族の王アッティラが、牧夫が土から掘り出した剣を献上されて、それをことさらに愛でて
これこそ 《マルスの剣》
( gladius Martis [羅])  なりと宣言したが、それはスキタイ族が軍神としてあがめた剣に相違ないという発言だったのである。
スキタイの神々の一覧表
| ギリシア・ローマにおける同等の神 | 神のスキタイ名 | 特記
|
|---|
ヘスティア/ウェスタ Hestia / Vesta
| タビティ Tabiti Ταβιτί
| 竈の女神。「特にこの神格を礼拝する」
ゼウス/ユピテル Zeus / Jupiter
| パパイオス Papaios Παπαῖος
| 最初の人間タルギタオスの父 (?) (ヘロドトス 4.5)
ガイア「大地」 Gaia "Earth" / Tellus
| アピ Apia Ἀπί
| パパイオスの妻。
アポロン Apollo
| ゴイトシュロス Goetosyrus Γοιτόσυρος
| —
アフロディテ・オウラニア/天空のヴィーナス Aphrodite Ourania / "celestial" Venus
| アルギンパサ Argimpasa Ἀργίμπασα,
| エナレエス〔* Ἐναρέης 両性具有〔〕な占術師〕たちに、しなのきの樹皮を使った占いを教えた (ヘロドトス 4.67)
ヘラクレス
| ??
| スキタイ王家の祖、スキュテースの父(?) (ヘロドトス 4.8~9)
アレス/マルス
| ??
| この軍神にかぎってのみ、神殿や神体が作られる。
ポセイドン/ネプチューン Poseidon / Neptune
| タギマサタス Thagimasadas Θαγιμασάδας
| "王族" (パララタエ)が崇めて生贄をささげる。
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