HOME > Fantasy Items Index > Persian cycles

— ペルシア・アラブ編 —

* フェルドウスィーの『王書』は、岩波本(岡田恵美子訳)から引くが、抄訳(部分的に要約)なのが難である。 田中芳樹『アルスラーン戦記』(『ア戦記』と略) も当辞書の当編の範疇に含める。

  1. Azrael 告死天使アズラエル 【禽獣:鳥】【田中芳樹作品】

    由来: Azrael 「死の天使」 < ペルシア語 ‘Izrā’il عزرائل 。( Web 上では عزراییلعزرائيل が一般的。)
    アルスラーン王太子が万騎長マーズバンキシュワードより譲り受け た鷹*1 (シャヒーン shāhīn شاهين) 。
    もとは二羽おり、兄弟鷹は告生天使セルーシであった。(『ア戦記』 )

    *1 創作上の"パルス語"では「シャヒーン」は「鷹(たか)」であるが、ペルシア語では「王族の白隼(はやぶさ)」の意味であるらしい。
  2. Birmaya ビルマーヤ 【禽獣:牛】【ペルシア:王書】

    Birmāya, Barmāya برمایه or برمايه [『王書』にのみ認められる語形] 「美しい」の意(?)

    異綴り:Barmāyūn, Birmāyūn برمايون
    [それほかダキーキー Daqīqī の叙事詩等にある語形:], Bazmāyūn, Farmāyūn, Māyūn, Pazhmāya, Pazhmāyūn 等々。
    由来: アヴェスタ語で牡牛の添え名であるbarəmāyaona
    訳名: Birmaya [Warner 英訳], Purmaieh [Helen Zimmern 英訳], Barmayeh [Shahnameh Ferdowsi Soc.英訳]

    英雄⇒フェリドゥーン(Faridūn)が赤子のときから 授乳して育てたという、孔雀のように色とりどりの毛並みをした牝牛。その後、乳母として立派に育て上げたが、勇者が成人し、育まれたエルブルズ山 Alburz をくだったあと、牛は蛇王に殺された。

    フェルドウスィーが筆をとる以前、このペルシア伝承の原型においては、ビルマーヤ/バルマユーンはじつは牛名ではなく、 フェリドゥーンの乳兄弟の名で、 二人してビルマーヤの母親の乳を分けていたのだという説がある。 (⇒ Encyclopedia Iranica 百科事典の barmāya の項(.pdf ファイル取得式) を参照。 )







    *1 Zimmern 女史の英訳では、フェリドゥーンが (牛頭の鎚矛グルザ・イ・ガウサール) を鍛治師に特注した際、 ビルマーヤの面影を偲んで牝牛型にさせたのだとしている(よってそれは«cow-headed mace»=「牝(めうし)の牛頭の鎚矛」なっている)。 なるほど合点のいく筋だが、これはどうやら原作にない脚色のようだ。(Zimmern は自分の訳出を「要約」 "paraphrase" だとしている)。 それとは対照的に、 Warner 訳では、「牡(おうし)の牛頭の鎚矛」となっているのだ。

  3. Buraq ブラーク 【禽獣:馬】【イスラム教】

     
    Burāq براق [アラビア・ペルシア語];
    異綴り: Al-Buraq, Al Borak, burâq 等

    預言者ムハンマド(マホメット)を第七天国(第七の第天球層)まで背負って搬んだ馬(のような生き物)。 人間の女性の頭をもち、驢馬よりは大きいけれども騾馬より小さいという。

     『ミーラージュ・ナーマ』(または『ミイラージュ・ナーメ』、『マホメットの天球層上昇の書』、マホメットの『夜の旅』 などと称する) という書物で語られる。

     マホメットは生きながらにして実際に(物理的に)天界に行って舞い戻ってきたのだととる説もあれば、 天界のまことの様子をありありを見て取ることができた啓示(夢幻)だとの説もあり、後者については「ハオマ」を喫することによって 得たビジョンだなどとも解釈される場合があるそうだ。
    フランス国立図書館(BNF) Supp. Pers 1029 写本 125葉裏
    (17 世紀) ニザーミーの 『ライラとマジュヌーン』
    同じ写本の『ホスローとシーリーン』 にもこれに似た挿絵が使われている(fol. 4 葉目裏
    );

    BNF turc 190, fol. 36
    (15世紀) 『ミーラージュ・ナーマ』より
  4. crysknife クリスナイフ 【武器:短剣】【SF作品:『デューン』】

     
    フランク・ハーバート原作のSF小説デューン:砂の惑星』 (1965 年) 以降続編で、 で惑星アラキス Arrakis の砂漠に原住民であるフレーメン族 Fremenが携える短剣。 砂虫(サンドワーム)の歯から作られる。

       
    シャダウト・メイプスの首に突きつけられたクリスナイフ。

    — 映画 "Dune" (「砂の惑星 デューン」)、
    監督 デヴィッド・リンチ
    © 1984 Dino de Laurentiis Corporation
    Mark @ www.duneinfo.com より許諾
    惑星デューンに国替えされたアトライデス家の側室にして嫡子の母であるジェシカの前に現れたシャダウト・メイプスを名乗るフレーメンの女が 取り出した短剣の柄は、指型に深くくぼんでいた。鞘から抜くと、 クリスナイフが現れた。「その乳白の刃は独自の輝きをはなち、刃渡りは 20 cm ばかり、 そして キンジャール kindjal のごとく両刃がついていた」

    『デューン』は、ペルシア・アラブからの借用が多い作品なのだが、ここでの元ネタはおそらく「クリス」(kris または creesecrys) と称する東南アジアの短剣であろう。 近年の英語辞書では、"kris" は「波打ったかたちをした刃をもち、それが収まる鞘もおなじ形状をしたマレー民族の短剣」、 などと定義されがちな傾向にあるが、本来はそうではない*1

       
    Lions Gate Arms & Armour 展示商品
    (上) ジャワ民族のクリスと鞘

    *1 本来は、とくに「波打った刃」ではない。マレー語の kirīs は、ジャワ語の kirīs, krīs, kres の借用である。そして西洋人が著わした 16 世紀の旅行記をみると、「クリス」はジャワ島や周辺の島の短剣をさし、そこには波打った刃である という記述はされていない。
    例えばオランダの探検家リンスホーテン van Linschoten は、 その旅行記(1598 年)の中で、 "crys" というナイフがスマトラ島西部で製造されていたことに触れているが、これは『デューン』の「クリスナイフ」の綴りと同じである。
    ⇒ Henry Yule と A. C. Burnell 編 Hobson-Jobson 辞書 Crease, Cris の項、 また、リンスホーテンと同時代のハクルート( Hakluyt, ch. 386)も参照。

    @ Faridun フェリドゥーン 【人物】 【ペルシア:王書】

    Farīdūn فریدون   または فريدون   (* 末註 1)
    異綴り: Faridun [Warner], Feridoun [H. Zimmer], Fereydoon [Shahnameh Ferdowsi Soc.]

     ペルシアの伝説的な王で、 『王書(シャー・ナーメ)』では、蛇王ザッハーク(Ẓaḥḥāk) ضحاک を 倒すと予言された人物。

     フェリドゥーンの武器は、牛頭の鎚矛グルザ・イ・ガーウサール

     その乳母の役を果たしたのは、 ビルマーヤという牝牛だった。

     フェリドゥーンが蛇王を倒したときの乗馬は、一説ではグルラングまたはゴルラング(「バラ色」の!) という。

  5. Gulrang, Golrang グルラング 【禽獣:馬】【ペルシア:王書】

    Gul-rang گلرنگ
    alternate spelling: Golrang [Shahnameh Ferdowsi Soc., etc.], "rose-red charger" [Warner], his steed [Zimmern]

     フェリドゥーンが、蛇王ザッハークを退治したときの乗馬。

     フェリドゥーンはまず、「アルワンド川. . もし中世ペルシア語を知らぬならアラビア語でデュジュレ川つまりチグリス川」*1 〔*岡田恵美子訳・岩波文庫『王書』第1部第五章5 (p.61 末行)〕に着くと、 「獅子の心をもつ」この「バラ色の馬」にまたがって渡る。

    そして向かった蛇王の宮殿は、中世ペルシア語ではガンゲ・ディジュフフトGang-i-Dizhukht ( gangi dizhhuḵẖt) گنگ دژهوختであり、 アラブ人が「聖なる家」 Bait al Mukaddas بيتالمقدس と称す場所であった。 一説では、これはエルサレム市*2のことだそうだ。

     このときのフェリドゥーンの馬は、一説ではグルラング(またはゴルラング) という名の馬であった。 ただ、この馬名は「淡紅色(ばらいろ)」という意味なので、単に馬の毛並みの形容詞だともとれるわけだ。じっさい岩波本では、「バラ色の馬」 〔*岡田恵美子訳・同上〕としている。

     しかしそうなった場合、カイ・ホスローの父でカーウースの息子スィヤーウシュ王子の馬がシャブラング号であった とするわけにはいかず、よって「黒馬」〔*岩波文庫『王書』第2部第五章〕となってしまう。解釈の相違であるはあるが、こうした他の馬名にも関わる問題である。



    *1 『アルスラーン戦記』(第8巻第一章I p. 9)では、「ディジレ河」はパルス国とミスル国を隔てる大河。



    *2 Steinglass ペルシア=英語辞書では ‘Jerusalem; an idol-temple’ 「エルサレム。偶像の神殿」と定義する。 また、Zimmern 英訳でも "Jerusalem" と訳している。

  6. «gurza 'i gav-sar» 牛頭の鎚矛グルザ・イ・ガウサール 【武器:メイス】 【ペルシア:王書】

    gurza[’i] gāv-sār گرزه [ی] گاو سار   (*表記問題については⇒末註2),
    または gurz~ گرز
    語意:[ gurza="大型の棍棒やメイス" + gavu "山牛" + sar "頭" ]
    異綴り: ~ gāv-sar گاو سر, [Steinglass 辞書]. gorz-e-gāvsār, gorz-ye ~, gorza-ye ~ [Ency. Iranica] .
    異名: ~gāv-paikar گاو پیکر~ gāv-chihr گاو چـهر 「牡牛面の」; ~ gav-rang گاو رنگ 「牡牛色の」等々。

    訳名: «ox-headed mace» [Warner], «cow-headed mace» [H. Zimmern]

    1. @フェリドゥーン の武器。
    フェリドゥーンのごとき英傑がこの世に現れ、牛頭の鎚矛をふるい、蛇王ザッハーク (Ẓaḥḥāk ضحاک ) を倒すという予兆はあった。蛇王自身がそのことを夢で告げられたのである。

    司教ズィーラク (Zīrak 「狡猾」の意 زيرك / زیرك ) の夢判断が的中しているならばそれは「鋼鉄の鎚矛」 gurz pūlādīn*1 گرز پولادين / گرز پولادین であった (* 『王書』 第一部第五章ザッハーク王 p.47-)

    この鎚矛が、フェリドゥーンの乳母の牝牛⇒ビルマーヤのおもかげを偲んで 創られたという説明は、どうやら英訳者 Helen Zimmern の脚色であるらしい。

    2. @ルスタム の武器。
    フェリドゥーンやルスタム等とこれに限らず、さまざまなペルシア英雄王らの武器としても登場する。
    フェリドゥーン、ザッハークを倒す。ふりかぶる牛頭の鎚矛は頭部を直撃。 (プリンストン大学所蔵 MSS 59G, fol. 13v)
    デマーヴァンド山への旅—大英図書館 Or. 12985, fol. 80 写本 (1573 年 ペルシア製)
    — Asadi の 『ガルシャースプの書』 (11世紀)
    ロスタム、悪鬼アックヴァーンを打つ —大英図書館 I.O. Islamic 1256, fol. 207 写本 (部分)(1630-40 年 ペルシア製)
    — 『王書』

    *1 「プーラード」 pūlād は、「最上級のダマスカス鋼」と定義される。

  7. Ruknabad ルクナバード 【武器:剣】【田中芳樹作品】

    [< Ruknābād シラーズ市を流れる川名]
    『ア戦記』でアルスラーン王太子が得る宝剣。 (⇒ ルクナバード)
  8. Surūsh 告生天使スルーシ [禽獣:鳥][田中芳樹作品]

    Surush [ペルシア語]
    異表記:Surūsh, Srōsh。
    Sarosh, Surosh [Steinglass 辞典], Sraosh, Sraoshahe [アヴェスタ]。 Surush(Warner 英訳 1905-年)。 Serosch ( H.Zimmer 英訳 1883)

    1. 『ア戦記』では双刀将軍ターヒールキシュワードのもう一羽の鷹で、斥候任務遂行中に無残にもヒルメスに斬られた。 同じ巣雛の兄弟告死天使アズラエルは、遠く離れても兄弟鷹の身の異変を感じ取っていた。

     その名の由来は、天使ソルーシュ。この天使は、中央ペルシアの叙事詩『王書』にも登場する−序盤(「カイユマルス伝」)で豹皮をまといし「幸運の天使ソルーシュ」 が妖精ペリのごとくあらわれて悪鬼ディヴらの悪巧みを警告するし、 またフェリドゥーン⇒ 《牛頭の鎚矛》 gurza’i gāv-sār をふるい蛇王ザッハークに とどめの一撃をふりおろそうとするとき、尚早だと諌める「吉兆の天使ソルーシュ」(第1部第五章6 / p.65)が現れるなど。

     ソルーシュの原型は、ゾロアスター教の七大天使永久に聖なる者たちアメシャ・スペンタアムシャスペンズ)のひとり スラオシャ

     さて、スルーシ/ソルーシュは、なるほど「幸運」や「吉兆」の天使とされているが、「告生」や「生命」の天使とはされていないのではないか?という疑問がわく。 しかし、大天使といえば、ガブリエル(ペルシア名 ジブリール Jabrail, Jibrīl جبريل) については「生命」の天使という象徴が定着していることに注目していただきたい。 そして、次に述べる理由から、「スルーシ/ソルーシュ」は「ガブリエル(ジブリール)」と同一視されるのである。

     ゾロアスター思想をもりこんだ創作文学で、一名"イランの『神曲ディヴィナ・コメディア』"とも称される 『アルダー・ウィーラーズ・ナーメ』という作品がある。その題名主人公の“正義漢アルダー”ウィーラーズ Ardā Wīrāz を各天国に案内する役割を果たすのは、大天使ソルーシュ/スラオシャなのである。 ところがイスラーム教にも、よく似たモチーフの重要な教書がある。それは『ミイラージュ・ナーメ』で、予言者マホメットが天球層へ上昇ミィラージュ( mi‘rāj ) するという伝えである。そのときマホメットにつきそったのは大天使ガブリエル(ジブリール)なのであった (* マホメットの天球層上昇の画像は ⇒天馬ブラーク を参照)

    このため、回教イスラームにおいては、吉兆の天使であるスルーシと生命の天使であるガブリエルとが重複かぶるのであろう。 田中芳樹作品においてスルーシ=「告生天使」とされる所以である。
     
  9. Shab-dez シャブディーズ 【禽獣:馬】【ペルシア】

    Shab-dez شبدیز または شبديز
    異綴り: Shabdiz.
    語意:["暗錆色"]

    ホスロー二世勝利王パルウィーズ(在位590‐628年)の馬。ターク・イ・ブスターンの摩崖浮彫の「騎馬像図」で、 王が騎乗している馬がそれだともいわれる。〔*参:東京大学博物館 西アジア考古学美術写真データベース騎馬像彫刻。騎馬像の上に位置する 「叙任式図」では、アフラ・マズダが権力の象徴たる頭飾キアリス〕 cialis [希] を王に授け、水瓶を持物とする女神アナーヒターが第二の王環を賜っている〕

    この馬が死んだとき、家臣は誰ひとりシャーにこれを報告する意気地がもてなかった。 この悲報をお耳に入れた伝令は、たちどころに死を賜ることかと誰もが思ったのである。そこで楽士のバルバードが妙案を思いついた。 それは、どこからともなく聞こえる曲によって、馬の死を王にさとさせることであった。

    ホスロー二世勝利王

    ターク・イ・ブスターンのレリーフ彫刻

    — courtesy Livius,
    photo by Marco Prins

    Khusru II 世の彫刻
    c. A.D. 紀元 620 年。 Tāq-i-Bōstān
    (H. Russell Robinson, Oriental Armour, p. 23)

    『ホスローとシーリーン』の場面
    行水するシーリーンを王が覗き見するところ (Bodleian Library 写本)

    ホスロー王の宴に、バルバード、木に隠れて琵琶を弾きはじめる。 (『王書』写本 イラク製 1300 年頃)(部分)
    — courtesy Los Angeles County Museum of Art, The Nasli M. Heeramaneck Collection, gift of Joan Palevsky, M.73.5.406
  10. Shab-rang シャブラング [bestiary:horse] [Persia]

    Shab-rang شبرنگ
    異訳: black steed, black charger, etc. [Warner]
    語意[shab 「夜、闇」 + rang 「色」 ]

    1. カイ・ホスローの父でカーウースの息子スィヤーウシュ王子の馬。黒毛か鈍鉄(にびてつ)色。 〔*岩波文庫『王書』第2部第五章では単に「黒馬」〕

    2. ファンタジー小説『アルスラーン戦記』では、パルス軍で「戦士のなかの戦士マルダーン・フ・マルダーン」の異名をとり 敵軍から「黒衣の騎士」として恐れられる、(元)万騎長ダリューンの黒馬の名が黒影号シャブラング

HOME > Fantasy Items Index >